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淫夢鉄道の夜
第2章 ヤリサーのリーダーだった男
あっと言う間に1時間が過ぎた。辺りは次第に暗くなっていく。

「いよいよ夢ノ元橋ですね」

「そうそう。わくわくしますね」

紅葉の木々の間を車輛が抜けると、いきなりエメラルドグリーンが広がった。その上に赤い鉄橋がかかり、車体が進んでいく。水面3メートル。まさに湖上を走っているような感じだった。

「おお!」

二人は写真を撮りまくった。

およそ30秒。再び車体は紅葉の中へ飲み込まれた。

「佐藤さん、撮れましたか?」

「バッチリですよ!」

二人は互いに顔を見合わせ笑いあった。

次の鬼頭駅で二人は降りた。霧幻橋を見るためには、ここで一泊する必要がある。

「高倉さん、泊まりはあけぼの荘ですよね」

「もちろんです。あそこ一軒しかありませんから」

「よかったら夕食も一緒しませんか。もっと話をしましょうよ」

「喜んで。僕からもお願いしようと思ってました」

二人は並んで宿へのゆるい坂を上っていった。徒歩20分、あけぼの荘は湖に少し張り出した高台に建つ2階建ての瀟洒な旅館だった。玄関の前から夢ノ元橋もよく見える。

チャックインを済ませると佐藤が、

「夕食まで時間があるようだから、部屋で浴衣に着替えたら、一緒に露天風呂に入りましょう。ここの温泉いいらしいですよ」

「え、ここ温泉なんですか」

「知らなかったんですか。いま若い女性に密かに人気の温泉です。美肌の湯らしいです」

「でもこんな山奥に若い女性なんて来るんですか。さっきの車輌にも全然人は乗ってなかったし」

「いま時みんな車で来るんですよ。そのほうが時間もかからないし。鉄道に乗って喜んでるのは、ボクたち鉄オタくらいのもんです」

「そうなんだ」

友樹の頭の中に妻の佳純の顔が浮かんできた。温泉って言ったら佳純も一緒に来てくれたかも知れない……。

「どうしたんですか。温泉はダメなんですか。アレルギーでNGとか」

「いや、そんなことないです。温泉は大好きです。わかりました。露天風呂で会いましょう」

佐藤は1階、友樹は2階の部屋だった。いったん佐藤と別れ、部屋に入り、置いてあった浴衣に着替えると、早速、露天風呂へ向かった。
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