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満ちる満ちる満ち足りる
第3章 刺激
「あたし自分に自信がなくて。同期は昇進していくし、後輩は出来る子ばっかりで。」

二人は地下のバーのカウンター席に並ぶ
幸子は何を頼んで良いかわからず、三原と同じものを注文した

「頑張ってきたけど、踏ん張ってきたけど、疲れた。ずっと頑張ってた。なのに、なのに、、」

幸子は泣きじゃくる
三原は黙って幸子の話を聴いている

「今日だって三原さんの足を引っ張ったかもしれない。あたし、あたし。」

幸子は涙が止まらなくなった
三原がそっと来ていたカーディガンを幸子の肩にかけた

「きっと見てる人は見てるよ。だからこうして吉村さんを見込んだんだ。この人となら楽しく仕事出来そうだと思った。」

「た、楽しい?」

「結果じゃないって僕は思ってる。」

幸子は鼻水まで垂れている

「このカクテル、称賛って意味を持つんだ。」

幸子は鼻水を拭いて、グラスに口を付ける
甘すぎず、口のなかで酸っぱさも広がる
初めて飲む味
肌が赤くなる

「自信なんて持たなくて良いんだよ。こうして惹かれる人も居るんだからさ。大事なのは、一緒にいてどういう影響を与えるかなんじゃないかな。そんなの肩書きや地位で測れない。少なくとも俺は刺激をもらっているよ。人としても男としても。」

三原のグラスを持つ手
大人の手
手フェチの幸子はくらくらしてしまう
しかしちゃんと指輪がはめられている
指も綺麗

「奥さんと歩いてるとこ見ました。美人ですね。モデルさんみたい。」

幸子はすっかり涙も乾いていた

「美人かあ。これでも妻には頭が上がらないんだ。」

三原は照れ臭そうに頭をかいている
バーの雰囲気に幸子は酔いしれていた
と同時に三原に涙も弱さも鼻水もさらけ出してしまって、恥ずかしくなる

「明日は、先に経つよ。もう一件商談があるからね。」

そうか。この夜でお別れなのね
また会社で会えるけど、三原は忙しく、なかなかこうして二人っきりで話せる機会はない
この時間が、この夜がずっと続けば良いのに
幸子はなだらかな気持ちでバーの雰囲気に酔いしれるのであった
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