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満ちる満ちる満ち足りる
第9章 さらば
出張から帰ると彰のゴルフクラブがなかった
掛けてあった服もない
チラシの裏に書き置きがある

フランス行ってくる
飯ちゃんと食えよ

冷蔵庫を開けるとタッパーに肉じゃがが入っていた
幸子は涙する
彰が居ないなんて、、あたしこれからどうやって生きていけば、、

しばらく立ち尽くしていたが
次第にお腹も減ってきた
肉じゃがを温めて食べる

「おいし。」

これからどんなに心がやつれても
冷蔵庫に食料を入れると誓った
彰との約束だから



寂しがる暇もなく仕事は繁忙期へと突入する
幸子たちは連日残業になった
能率も上がらない

「鶴見どこまで進んだ?」

「あとこれとあれと、あの案件もまだで、、。」

「今日は帰っていいよ。」

後輩を帰して一人事務処理をする

「あー肩凝ったなあ。今日もコンビニだわ。」

毎日適当に夕食を食べていた
彰との愉快な食卓が懐かしい
うとうとしていると
入口に人影が見える

「おっす。」

松下だった

「おっす。」

幸子も真似をする

「はい、差し入れ。駅前にできた弁当屋の。」

いい匂いがする

「食べる~!」

久々のちゃんとした食事にじーんとくる

「あとどんくらい?」

幸子が指を指す
とても一人じゃ終わらない量だ

「無理すんなよ。」

松下が片手で幸子の肩を揉む仕草をした

食べ終わると
二人で事務処理を再開させる
松下はサクサク片付けて行く

「三原さん離婚するらしいよ。」

「そ、そう。」

あまり驚かない

「もしかして、知ってた?」

「いや、別に。」

幸子が口ごもる
三原の妻の最近の活躍は目覚ましい
本名ではなく芸名で活躍しているようだ

「星名香。」

松下が横でネット検索をしている
幸子が覗き込むと、美人妻がヌードに扮していた
例え三原が離婚したからといって
幸子は今までと変わらないつもりでいた

「勝ち目ないな吉村。」

「うっさい。さ、仕事仕事。」

幸子は再びタイピング作業に戻る

夜は9時を回る
あともうちょいかな

「あたしさ、」

幸子はパソコンに目を向けたまま話しはじめる

「会社辞めようと思ってる。」

「なんで?」

「フリーになろうとね。」

松下が体ごと幸子の方を向いた

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