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冬雪記
第2章 調教
 竹蔵が手にしているのは六十センチほどの長さの黒い棒だった。

 棒の先端に長方形で平べったくて堅そうなものが付いている。

 竹蔵が握っている部分はラケットのグリップの様になっている。

 さらに、そこに付属している革製の輪に手首を通し、落ちないようにしていた。

 竹蔵が持ってるのは乗馬用の短鞭だった。

「さあ、奥さん、自分の立場を分かってもらおうか……」

 竹蔵は言うと鞭を一振りし風切音を響かせる。

 竹蔵に背を向けたままの亜由美は、得体の知れない音に身を震わせる。

「聞こえるかい? これはな、乗馬用の短鞭ってやつだ」

 竹蔵は言うと、向けられている亜由美の背中に先端の長方形の部分を当てた。

「きゃっ!」

 ひやっとした感触に亜由美は悲鳴を上げた。

「……奥さん、今背中に触れたのはフラップって言う部分だ。ここで馬を打つのさ。この鞭、何に使うか知っているかい?」

「やめて…… お願い……」

「それは答えじゃないねぇ……」

 竹蔵は含み笑いをする。

「答えはね、馬の注意を促したり、活を入れたりするのに使うんだ…… 分かるかい? 言う事を聞かないヤツに使うんだよ」

「……言う事を聞くわ。だから……」

「ふむ……」

 竹蔵は震える亜由美の背中を見る。

「反省するのは良い事だが…… 遅かったね」

 亜由美の背を離れた鞭は、風切り音を立てて、亜由美の腰を打った。

 コンクリートの壁と天井に鋭い音が響き渡った。

「いやあぁぁぁぁ!」

 亜由美が絶叫し、身を捩る。
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