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冬雪記
第1章 はじまり
 亜由美は昇一を睨んだ。

「ははは! 怒りで自分の状況が分かっていないようだな!」

 昇一は笑う。

 昇一の言葉に亜由美は自分を見た。

 ベッドの時と同じく全裸だった。

 亜由美は咄嗟に手で乳房と陰部を隠す。

 右足首に黒光りしている金属製の足枷が嵌められ、そこから錆の浮いた鉄製の鎖が伸び、その先端が壁に埋め込まれている。

 周囲はコンクリート地を剥き出しにした広い部屋だった。

 天井には蛍光灯が幾本も嵌めこまれ煌々と室内を照らしている。

 四方の壁には窓が無い。

 部屋は広かった。

 床には古びて毛羽立ち、湿ってつんとした嫌な臭いがする畳が数十枚敷き詰められていた。

 亜由美が居る所に毛足の長い半畳ほどの大きさの赤いカーペットが敷かれている。

 昇一は半開きになっている鉄製の扉を背にして立っていた。

「……ここは、どこなの?」

 亜由美は呆気にとられた様子で昇一に言う。

「ここか? ここは、お前が隆昭とよろしくやっていた別荘だ」

「……嘘よ! わたし、こんな部屋があるなんて知らないわ!」

「そりゃそうだ。……教えていないからな」

「教えて、って…… どう言う事よ!」

「ここはな、別荘の地下室だ」

「地下室……」

「そうだ。オレと極一部のヤツしか知らん。お前は知らない」

「夫婦なのに、わたしには教えていなかったって言うの?」

「そうだ。ここは完全にオレの趣味の部屋なのさ」

「趣味……?」

「そうだ。……おい、竹蔵!」

 昇一は半開きの扉に向かって声を上げた。 
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