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おはようのキスからおやすみのキスまで
第1章 朝
「さっき不動産屋に電話してみたんだけど、明日の朝じゃないと修理に来られないって」
渚から告げられたのは無情な死刑宣告だった。時期が悪すぎたのだろうと伊吹は考える。業者がすぐに来られないということは、それだけ修理依頼が増えて手が回っていないということだ。とはいえ彼らも過密日程の中で来てくれるのだから、感謝こそすれど文句を言える立場ではない。
今日もこの暑さの中で過ごさなければならないのかと考えるだけで気分が萎える。昨日だって、冷房の効かない部屋で過ごす熱帯夜は地獄でしかなかった。伊吹の偏頭痛が悪化するのも頷ける。
絶望感に打ちひしがれ、伊吹は落胆した顔をシーツに沈めて横に伏す。その隣では真剣な眼差しでゲームに勤しんでいる渚がいる。暑さもどこ吹く風と言わんばかりの涼しげな表情だ。お前汗腺どうした? と突っ込みそうになった伊吹だが、あえて触れずに彼女のゲーム機に目を留めた。
「……何のゲームしてんの?」
肘を立てて、画面を覗き込むように身を乗り出してみる。伊吹の目に映ったのは、どこかで見たことがあるような二次元のキャラクターだ。異国の王子様風な衣装を身に纏った男が、画面から爽やかな笑顔を披露している。
「それってアレだろ。乙女ゲームってやつ」
「うん。友達に借りたの」
本当は借りたというより、押し付けられたという表現が正しい。渚が友人から無理やり手渡されたソレは、『異世界で王子達から溺愛されています』という、今時なタイトルの元に発売された恋愛シュミレーションゲームだ。
攻略対象は6人。ジャンルは恋愛だが、ストーリーには不可解な謎かけも散りばめられている。この手のゲームは今までプレイした事がなかった渚だが、王道的な内容で難しい選択肢もなく、乙女ゲームと銘打っているだけあって胸キュン要素はかなり多い。お陰で渚もそれなりに楽しめている。
「面白い?」
「うん、普通」
「ハマってんの?」
「うん」
「……なあ、俺と話すより楽しいのそれ」
「うん」
「いや夢中じゃん……」
渚から告げられたのは無情な死刑宣告だった。時期が悪すぎたのだろうと伊吹は考える。業者がすぐに来られないということは、それだけ修理依頼が増えて手が回っていないということだ。とはいえ彼らも過密日程の中で来てくれるのだから、感謝こそすれど文句を言える立場ではない。
今日もこの暑さの中で過ごさなければならないのかと考えるだけで気分が萎える。昨日だって、冷房の効かない部屋で過ごす熱帯夜は地獄でしかなかった。伊吹の偏頭痛が悪化するのも頷ける。
絶望感に打ちひしがれ、伊吹は落胆した顔をシーツに沈めて横に伏す。その隣では真剣な眼差しでゲームに勤しんでいる渚がいる。暑さもどこ吹く風と言わんばかりの涼しげな表情だ。お前汗腺どうした? と突っ込みそうになった伊吹だが、あえて触れずに彼女のゲーム機に目を留めた。
「……何のゲームしてんの?」
肘を立てて、画面を覗き込むように身を乗り出してみる。伊吹の目に映ったのは、どこかで見たことがあるような二次元のキャラクターだ。異国の王子様風な衣装を身に纏った男が、画面から爽やかな笑顔を披露している。
「それってアレだろ。乙女ゲームってやつ」
「うん。友達に借りたの」
本当は借りたというより、押し付けられたという表現が正しい。渚が友人から無理やり手渡されたソレは、『異世界で王子達から溺愛されています』という、今時なタイトルの元に発売された恋愛シュミレーションゲームだ。
攻略対象は6人。ジャンルは恋愛だが、ストーリーには不可解な謎かけも散りばめられている。この手のゲームは今までプレイした事がなかった渚だが、王道的な内容で難しい選択肢もなく、乙女ゲームと銘打っているだけあって胸キュン要素はかなり多い。お陰で渚もそれなりに楽しめている。
「面白い?」
「うん、普通」
「ハマってんの?」
「うん」
「……なあ、俺と話すより楽しいのそれ」
「うん」
「いや夢中じゃん……」