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夢魔の半生
第8章 単身赴任先
 突如目の前で始まった媚態に真っ赤になりながら早口で紋切り型の口上を述べるとウエストレスは踵を反して足早に立ち去ろうとする。
 「注文いいかな?」
 逃がしてなるものか。三歩も進んでいない背中に声をかける。
 客が俺達以外に二組しか居ない伽藍とした店内に響く大声量にウエストレスも歩みを止めざるを得ない。
 「お、お伺いします。」
 端末機に視線を落としながら時折こちらをチラ見するウエストレスに時間をかけて真実子用にサンドイッチ盛り合わせとドリンクバー。俺用にサーロインステーキ400gを2つと生ビールを大ジョッキで頼む。
 ウエストレスが去ったので愛撫の手を止めると真実子は不満そうに肉棒を擦る手に力を込めるが甲を抓るとようやく手を止めた。
 料理が来るまでの時間で俺は真実子の亭主の情報を聞き出した。
 最初は重たかった口も
 「教えてくれたら三年もお前を抱かなかった冷血漢と別れさせてやる。」
 と、囁いてやればパカッと開く。
 よく貝のように固い口なんて言うが貝は少し熱を加えてやれば簡単に口を開くのだ。
 三神一志。真実子より三歳年上の30歳。中の上と上の下を行き来するレベルのそこそこの商社の営業職。若いながらなかなかの遣り手で今はその手腕を買われて東北に新たに作られた支社に単身赴任して新規顧客の獲得に奮戦しているそうだ。
 絵に描いたようなエリートサラリーマン。
 気に入らない。
 どんな奴だって聖人君子じゃないんだ叩けば埃の一つや二つ出るだろう。もし出なければ適当に他所から持ってきて被せてやればいい。
 仏頂面のウェイターが持ってきた大量の肉を頬張り血が巡り思考が動き出した脳で計画を練っている横で真実子はサンドイッチをちびちび食べながら未だ桃色の夢の世界を彷徨っていた。
 食事を終えると別離をなごむ真実子を無理矢理電車に乗せて送り出すと俺はホームのベンチに座るとスマホを取り出しとある人物のアポイントメントを取り付けた。
 準備が整い真実子に再び連絡を取ったのは五日後の夕方だった。真実子は警邏中だったが直ぐに電話に出た。余程待ち遠しかったようだが会うのはもう少し先になる。 
 直近の金曜日が非番だというので金曜日の15時半に東北地方にある商業都市の駅で待ち合わせをした。
 15時過ぎに駅に着いてスマホを確認すると真実子から現着したとのメールが入っていた。
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