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夢魔の半生
第8章 単身赴任先
発信時間を見れば14時34分。随分待たせてしまった。
早足で新幹線の改札を出ると待合室の並んだベンチの端に背筋を伸ばして座っている女性が居た。
白地に紺のストライプのシャツに若草色のスラックス。運動できる格好でとのリクエストにあわせて足元はスニーカーだ。
緩やかなカールをかけて整髪料で固めたセミロングの髪、紅く塗られた唇。涼やかな目元。誰もが振り返る美人だが同時に近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
「待たせたな。」
声を掛けると厳しかった表情が花が綻んだ様に明るく緩む。
「出よう。」
溢れるような笑みから視線を外して移動を促す。
これから行う事を思うと罪悪感で真実子の顔がまともに見れない。
これから俺は私利私欲の為に真実子の家庭を壊すのだ。
あの日駅のホームから電話した先は俺が懇意にしている探偵社だった。金さえ払えば迷い猫から警察でも得られない指名手配犯まで探し出せる凄腕だ。
ここに真実子の亭主、三神一志の浮気調査を頼んだ。
健康な三十男が三年も女を抱かずにいられるだろうか?インポや男色でもなければ考えにくい。しかも今は女房の目の届かない単身赴任中だ。女の影の一つや二つあるだろうと思っての事だ。
届いた調査結果を見て俺は溜息をついた。
亭主はある意味とても健康的でとても不健康な男だった。
端的に言えば浮気相手はやはり存在した。所謂現地妻ってやつだ。
これは想定内だから驚きはしないが問題は相手だ。
「ご主人様。これは本当なんですか?」
喫茶店の片隅で調査報告書に目を通した真実子の声が震えている。
「間違いない。俺はこれから浮気現場に乗り込むがお前はどうする?」
「・・・・・・」
沈黙は5分程続いた。
「お供します。」
正面から俺の目を見据え断言した真実子の声には僅かな躊躇もなかった。
そのまま喫茶店で軽い食事を取り雑談しながら時間を潰す。
予定の時間になったので店を出る。行き先は一志が仮住まいしているアパートの裏手にある小さな公園だ。
日がすっかり落ち青白い街灯が照らすベンチに真実子と並んで座り小さな箱形の機械からイヤホンを耳に嵌める。
傍目には一緒に音楽を聴いているように見えるだろうが箱から流れてきてるのは一志の部屋に仕掛けられた盗聴器の拾う一志と現地妻の会話だった。
早足で新幹線の改札を出ると待合室の並んだベンチの端に背筋を伸ばして座っている女性が居た。
白地に紺のストライプのシャツに若草色のスラックス。運動できる格好でとのリクエストにあわせて足元はスニーカーだ。
緩やかなカールをかけて整髪料で固めたセミロングの髪、紅く塗られた唇。涼やかな目元。誰もが振り返る美人だが同時に近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
「待たせたな。」
声を掛けると厳しかった表情が花が綻んだ様に明るく緩む。
「出よう。」
溢れるような笑みから視線を外して移動を促す。
これから行う事を思うと罪悪感で真実子の顔がまともに見れない。
これから俺は私利私欲の為に真実子の家庭を壊すのだ。
あの日駅のホームから電話した先は俺が懇意にしている探偵社だった。金さえ払えば迷い猫から警察でも得られない指名手配犯まで探し出せる凄腕だ。
ここに真実子の亭主、三神一志の浮気調査を頼んだ。
健康な三十男が三年も女を抱かずにいられるだろうか?インポや男色でもなければ考えにくい。しかも今は女房の目の届かない単身赴任中だ。女の影の一つや二つあるだろうと思っての事だ。
届いた調査結果を見て俺は溜息をついた。
亭主はある意味とても健康的でとても不健康な男だった。
端的に言えば浮気相手はやはり存在した。所謂現地妻ってやつだ。
これは想定内だから驚きはしないが問題は相手だ。
「ご主人様。これは本当なんですか?」
喫茶店の片隅で調査報告書に目を通した真実子の声が震えている。
「間違いない。俺はこれから浮気現場に乗り込むがお前はどうする?」
「・・・・・・」
沈黙は5分程続いた。
「お供します。」
正面から俺の目を見据え断言した真実子の声には僅かな躊躇もなかった。
そのまま喫茶店で軽い食事を取り雑談しながら時間を潰す。
予定の時間になったので店を出る。行き先は一志が仮住まいしているアパートの裏手にある小さな公園だ。
日がすっかり落ち青白い街灯が照らすベンチに真実子と並んで座り小さな箱形の機械からイヤホンを耳に嵌める。
傍目には一緒に音楽を聴いているように見えるだろうが箱から流れてきてるのは一志の部屋に仕掛けられた盗聴器の拾う一志と現地妻の会話だった。