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ノーサイドなんて知らない
第2章 ラグビーなんて観たことない
「すごく美味しいな。
茉莉(まり)さん、料理、凄く上手なんですね?
あ、ワインは?
そうなんだ。
お酒は弱いんだね?
じゃあ、俺が呑むね?
あ、平気平気。
自分のペースで手酌するから」


熊野さんは楽しそうに話しては、
ガシガシと食べ進めてはワインを呑んでいく。

私の倍くらいの量をお皿に載せたけど、
あっという間に空になってしまった。


「あの…足りましたか?」と訊くと、

「ごめん。
俺、食うの早くてさ。
大満足だよ。
ご馳走様でした」
と笑った。


「あ、皿くらい運んで洗うよ?」と言って、
一緒に立ち上がる。

「そんな。
大丈夫ですよ?」と言っても、
一緒に運んでくれる。


「食洗機だから、本当に大丈夫ですよ?
コーヒー淹れますね?」と、
電気ポットのスイッチを入れてから、
軽くお皿の汚れを洗い流してから食洗機に入れていく。

グラスは手洗いしてから、
丁寧にクロスで拭き清めていった。


「コーヒーは、ブルックスのやつしかなくて。
どれが良いですか?」と見せると、
一番手前のを選んでた。




丁寧にコーヒーを淹れて、
リビングのソファに座った。

私は猫舌ですぐに飲めないから、
テーブルに置いた。


「別に普通の名前じゃない?
茉莉(まり)さん、可愛い名前だよね?」と言われて、

「違うんです」と、小さい声で言った。


「えっ?」


「茉莉(まり)って書いて、『めあり』って読むんです。
メアリーですよ。
恥ずかしくて」と言うと、

「茉莉(めあり)、可愛いじゃん」と笑う。


「本当には、茉莉の後ろに薔薇って書いて、
『メアリーローズ』にしたかったらしいですけど、
薔薇っていう漢字が名前で使えなかったらしくて」と苦笑する。


「あれ?
ハーフとかなの?」と瞳を覗き込まれて紅くなってしまう。

「母がイギリス人で…」

「綺麗な瞳の色だね?」と言いながら、
頬をそっと撫でられる。


「あ…ご両親は?
出掛けてるの?」

「えっと…仕事と、祖父の介護で、
2人ともイギリスです」

「兄弟は?」

「一人っ子です」

「えっ?
じゃあ、ここ、一人暮らしなの?」

「えっと、そういうことになりますね」

「あ、そうか。
だからスリッパ、一つだったのか」と言いながら、
顎髭を掻いていた。


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