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ノーサイドなんて知らない
第1章 ジェントルマン(クマ)との出会い
「熊野さん…?」と名刺の名前を読みながら、
私は笑いそうになってしまった。
だって、
外見に似合いすぎていて…。
「今、ちょっと笑ったでしょう?」と言われて、
慌てて首を横に振った。
「良いよ。
みんなに、『クマ』って呼ばれてるから。
下の名前で呼ばれたいよ」
と、顎髭を掻きながら言った。
「熊野…薫さん?」
「あ、また笑ったでしょう?
女の子みたいな名前だから」と笑う。
「薫風香る5月5日生まれだから、
かおるになったんだよね。
まだ、金太郎とかの方が、
良かったのかもね」と言うので、
いや、熊に跨る金太郎の方じゃなくて、
やっぱりクマに似てるけど…と、
心の中で思って、
クスっと笑ってしまう。
少しずつタクシーの列が前に進む。
「あの…熊野さんはお近くなんですか?」
「車で5分くらいかな?
いつもは歩くか走るくらいの距離」
「どちらの方向ですか?
…それなら同じ方向だから、
タクシー、ご一緒しませんか?
すごいお荷物ですし」
「でもさ、
それだと、家とか判っちゃうけど、
良いの?」
「えっ?」
「初対面のオトコに、
家を特定されちゃうよ?」と笑う。
「あっ…、
でも、ジェントルマンだから…」と言うと、
更に笑われてしまう。
「じゃあ、先に熊野さん、
降りてください。
私、そのまま乗って行きますから。
そしたら、せめて、
タクシー代くらいは私がお支払い出来るでしょ?」
「まあ、そうだね?
じゃあ、お言葉に甘えようかな?」
「良かった!」
「それでさ、
名前、教えて貰えないのかな?」
「あ…ごめんなさい。
森田です」
「下の名前は?」
「恥ずかしいから言えません」
「えっ?
恥ずかしい名前って?
どういうこと?」
私は初対面の人に、
自分の名前を言うのは、
本当に恥ずかしくて、
毎回、両親を恨んだ。
「キラキラネームなのかな?
なんか、気になる。
でも、言いたくないなら、
言わなくて良いよ」と言われてホッとする。
ようやく、タクシーの順番が来た。
「重たいから、
こっちでやります」と言って、
初老の運転手さんを気遣うようにトランクに荷物を入れる。
私が乗り込む時は、
頭をぶつけないように、
乗り口の上を手でカバーしてくれて、
奥まで入るのを待ってくれた。
私は笑いそうになってしまった。
だって、
外見に似合いすぎていて…。
「今、ちょっと笑ったでしょう?」と言われて、
慌てて首を横に振った。
「良いよ。
みんなに、『クマ』って呼ばれてるから。
下の名前で呼ばれたいよ」
と、顎髭を掻きながら言った。
「熊野…薫さん?」
「あ、また笑ったでしょう?
女の子みたいな名前だから」と笑う。
「薫風香る5月5日生まれだから、
かおるになったんだよね。
まだ、金太郎とかの方が、
良かったのかもね」と言うので、
いや、熊に跨る金太郎の方じゃなくて、
やっぱりクマに似てるけど…と、
心の中で思って、
クスっと笑ってしまう。
少しずつタクシーの列が前に進む。
「あの…熊野さんはお近くなんですか?」
「車で5分くらいかな?
いつもは歩くか走るくらいの距離」
「どちらの方向ですか?
…それなら同じ方向だから、
タクシー、ご一緒しませんか?
すごいお荷物ですし」
「でもさ、
それだと、家とか判っちゃうけど、
良いの?」
「えっ?」
「初対面のオトコに、
家を特定されちゃうよ?」と笑う。
「あっ…、
でも、ジェントルマンだから…」と言うと、
更に笑われてしまう。
「じゃあ、先に熊野さん、
降りてください。
私、そのまま乗って行きますから。
そしたら、せめて、
タクシー代くらいは私がお支払い出来るでしょ?」
「まあ、そうだね?
じゃあ、お言葉に甘えようかな?」
「良かった!」
「それでさ、
名前、教えて貰えないのかな?」
「あ…ごめんなさい。
森田です」
「下の名前は?」
「恥ずかしいから言えません」
「えっ?
恥ずかしい名前って?
どういうこと?」
私は初対面の人に、
自分の名前を言うのは、
本当に恥ずかしくて、
毎回、両親を恨んだ。
「キラキラネームなのかな?
なんか、気になる。
でも、言いたくないなら、
言わなくて良いよ」と言われてホッとする。
ようやく、タクシーの順番が来た。
「重たいから、
こっちでやります」と言って、
初老の運転手さんを気遣うようにトランクに荷物を入れる。
私が乗り込む時は、
頭をぶつけないように、
乗り口の上を手でカバーしてくれて、
奥まで入るのを待ってくれた。