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ノーサイドなんて知らない
第6章 引退、結婚とパパラッチさん問題
熊野さんと2人で刻印して頂いた結婚指輪を受け取りに出掛けた日のことだった。

のんびり歩いていると、
小さな画廊のようなところのウィンドウに飾ってある写真が気になって立ち止まった。

山岳写真…というジャンルがあるのかは判らないけど、
とても素敵な山の風景で、
風の音や、匂いがしてくるような写真だった。


吸い込まれるように中に入って、
一つ一つ丁寧に観ていった。

前半は山の写真。
後半は、何処かの少数民族の住むエリアの写真。


作品のキャプションに小さくお値段が書いてあったので、一番気に入った山の風景写真を、「リビングの壁に飾りたいな」と言うと、
「良いね。俺がプレゼントしようか?」と熊野さんが笑うので、
「じゃあ、寝室用のは、私に買わせて?」と、
小さめで可愛らしい雰囲気の焚き火の向こうに丸いテントのような家と馬が写ったものを選んだ。

画廊のスタッフさんに声を掛けて会計をして、
展示会が終わった後、
配送して頂くようお願いして帰宅した。


本当に何も飾るものがない私たちの部屋に、
少しだけ彩りが出来た気がした。


1週間ほどしたある日、
額装された写真が配送される連絡があった。


業者さんが持って来てくれると思っていたら、
黒いスーツ姿の男性が額を入れた大きな袋を持ってやって来た。

インターホン越しでは判らなかったけれど、
玄関を入った時に、
「こんにちは…」と言った声を聴いて、
「あら?
あの…いつかお会いしたカメラマンさん?
岡村さんでしたっけ?」と言うと、
「あれ?気がついてなかったんですか?」と言った。


部屋の中から、
「茉莉(めあり)、どうしたの?
知り合い?」と声を掛ける。


「えっと…。
この前のお写真のカメラマンさんが、
届けてくださって…」
私は上手く説明出来ない。


ひょっこり顔を覗かせた熊野さんは、
「あれ?
週刊誌のカメラマンさん?」と、
目を丸くして言った。


「こんな処じゃ…。
お時間ありましたら、
お茶でも?
中にどうぞ?」と言って、
下駄箱から真新しいスリッパを出して足下に揃えると、
「えっ?
良いんですか?」と言って、
少し困惑した顔をしていた。
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