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ノーサイドなんて知らない
第9章 それぞれの想い
もう一つの引っ掛かることは、
熊野さんのお兄様夫婦のことだった。


お子様の頃は仲良し兄弟だったということは、
お母様やお祖母様のお話から感じられたけど、
今は…。

二世帯住宅に住んでいるのに、
殆ど顔を合わせることがなかった。


ご夫婦で外科医をされていてお忙しいのだろうとは思っていたけど、
本当にお隣で、
休日もあるだろうけど、
結婚式の時とか、
何か親族が集まる場でしかお会いすることはなかった。


私たちがご実家にお世話になったせいかと思ったけど、
それ以前もそんな感じだったようで、
それについて、特に話題に出ることもなかった。


物静かなお兄様。
クールな感じのお義姉様。


出産の時も、一度だけ退院間近にお見舞いに来てくださり、
その後はお祝いが百貨店から直送で届いたけど、
すぐ隣のこちらに来てくださることはなかった。



私…。
嫌われちゃってるのかな?


そんなことを考えてしまっていたけど、
大学の勉強も忙しそうなのに、
育児も手伝ってくれている熊野さんにそんなことを言えるはずもなく、
悶々としてしまっていた。


健(たける)と名付けた長男は、
そんな私のちょっとした悩みとは無縁な感じで、
すくすくと育っていった。


心配していた母乳もどんどん出るようになって、
それでも足りないほどで、
ミルクも併用しながら日に日に大きくなっていった。


熊野さんが夏休みに入った頃に、
本当に珍しく、お兄様夫婦がこちらの家のドアを叩いた。


私は少し緊張しながら、
紅茶を淹れる準備をして、
前日に焼いていたクッキーやマドレーヌをお出しした。

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