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ノーサイドなんて知らない
第9章 それぞれの想い
「やだ。
ごめんなさい。
心配掛けちゃうから、
薫さんにはあんまり言えなくて…」と言うと、
お義姉様はそっと私の頬を撫でてくれる。


「顔の表情、判らなくても、
顔が覚えられなくても、
他のことで気持ちや空気、
読めるでしょ?
だから大丈夫よ?」とゆっくり言い聞かすように言ってくれる。


「それに、熊野家の跡取り、
産んでくれて、
本当にありがとうね?」と続ける。


「えっ?」


「私は産めないから」


「…?」


お義姉様は私の手をそっと取ると、
自分の股間に当てた。


「…えっ?」


「ねっ?
私は産めないの」


私はすっかり混乱してしまって、
思わず股間の手をゆっくり動かしてしまった。


「やだ。
メアリーさん、くすぐったいでしょ?」と笑う。


柔らかくて小さいけど、
確かに女性には無いはずのモノがあった。


「多分、薫さんも知らないの。
ご存じなのは、ご両親だけ。
よく、結婚を認めてくださったと思うわ?
でも、法律的にはここの区は同性婚、認めてないから、
単なる同居人なんだけどね」


少しずつ腑に落ちていく。


外見や声もだけど、
一緒に居る時に感じる緊張感は、
異性として私が認識してたからだったということだった。


「彼は、最初、ノーマルだったのよ?
私の一方的な片想い。
それでも良いと思ってたし、
仕方ないって諦めてたの。
でもね、一緒に仕事をしていくうちに、
お互いに尊敬出来るし、
なんていうか…。
かけがえのない存在だって思うようになったの」


私、多分、泣いてしまっていた。


お義姉様はそっと健(たける)さんを私の手に戻して、
話を続けた。


「大学時代から住んでいた私の部屋で一緒に暮らすようになったけど、
流石に最初はご両親には言えなかったの。
私の方は、親にカミングアウトしたら、
勘当されちゃってたし。
そしたら、彼に沢山、お見合い話とかが来るようになってね。
ほら、薫さんもラグビーするって大学辞めたりしたから、
やっぱり医者として熊野家をって思ったんじゃない?
それで、彼が私をこの家に連れて来てくれて、
『この人と結婚したいから』って言ってくれたの。
戸籍上、男だってことも伝えて、
『法的な結婚出来なくても、
親が認めてくれなくても結婚するから』って」


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