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ノーサイドなんて知らない
第9章 それぞれの想い
「そしたらね、お母様がこう言ったの。
『そんなにお互いを思い遣れるお相手と出逢えたなら、
幸せなことじゃない?
良いわよね?』って。
私、びっくりしちゃった」と涙ぐんで言う。


「それで、
ちょうど二世帯住宅建て直した処だから、
そこに住めば良いって」


私は何も言えなかったけど、
お義姉様の辛かったこれまでのこととか、
お兄様、そしてご両親の優しさで胸が一杯になっていた。



「メアリーさんは、相貌失認で、
これまでも大変なことがあったと思うし、
こんな自分で大丈夫かなって思ってるかもしれないけど、
こんなに優しい熊野家の中だったら、
絶対に大丈夫よ?
私も…。
自分の生まれついた性と自分で認識している性が違うことで、
苦しんだりひどいことを言われること、たくさんあったけど、
熊野家の皆さんに出会えて、
やっと本当の自分になれた気持ちがしてるの。
他人がどう言おうと、どう思おうと、
もうどうでも良いかなって。
あ、薫さんはね。
ちょうどラグビーで家を出るタイミングで、
お会いした時も、
『お義姉さん、美人だなー。
モデルみたいだなー」って言ってて、
男性ですって言い損っちゃったけど」と笑った。


「それでね、これまで、夫とは別々の病院で勤務してきて、
職場にも私たちのこと、
話してなかったけど…。
アメリカの大学病院で、2人、勤務出来ることになったの。
あちらなら、同性婚も出来るし、
たくさんそういうカップルとかも居るから。
だから、9月には私たち、渡米する。
お隣、空いてしまうから、
メアリーさん達、そっちに引っ越して来れば良いかなって思って、
その話をしに来たのよ?」と優しく言ってくれる。


「えっ?」


「ほら!
隣なら子育てサポートとかも安心でしょ?
今はこんな襖一枚だと…。
セックスするのも遠慮しちゃうんじゃないかな?」


「…。
全然、してなくて…。
もう、飽きられてしまったのかも。
子供のお世話ばかりで、
魅力ないし…」


「やだ。
そんなことないわよ。
ちゃんと薫さんに訊いてみた?
授乳してるのは、聖母マリア様みたいに綺麗だし、
メアリーさん、本当に可愛いのよ?
あ、自分の顔も認識出来ないのね。
一般的に言って、最上級に可愛いから、
安心して?」と、優しい声で言いながら髪を撫でてくれた。


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