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芦屋洋館秘話 ハウスメイドの献身ご奉仕
第4章 当主後継者 慶一

「愛育院を出る時に、慶一さんは青山家の奨学金で大学に、私は青山家のハウスメイドにということで、お互い青山家のご縁で進路が決まって良かったね、と二人で話を致しました。しかし、私が院長室で涼子さんから伺ったような、青山家の<しきたり>や、ご主人様のお世話係として、お子を産むご奉仕をすることまでは、お話ししませんでした。まして、ご主人様との間にお子を授かったことも、ご存知ないはずです。」有香は、唇を震わせ、目を潤ませながら、さらに続けた。
「慶一さんは、交際中の方を連れて戻られるそうですし、私はご主人様のお子を授かった身です。私などがご奉仕させていただけるのでしょうか。」
「そのことも、きちんと話をしたんだ。慶一君は、<当主を継ぐからには、家のために責務を果たしたい。これまで献身的に奉仕してくれてきた由香さんや、玲奈ちゃんのことを大事にしていくのは、当主として当然のこと>と言ってくれた。もちろん、有香さんさえ良ければ、だけど。」
有香は、数分間も沈黙していたが、やがて意を決したように、はっきりとした口調で言った。 「あの夏の日にも申し上げました。ご主人様との初めての日、私の腰のアザのことを気に掛けていただいて以来、そのお優しさにご恩返ししようと、ご主人様が望まれることなら何でもと、ご奉仕して参りました。今度のことも、ご主人様のお優しさが嬉しゅうございます。喜んで、慶一様のお世話をさせていただきます。志保さんと仰る方とも、これまで涼子さんにたくさん教えていただいたご恩返しと思って、ご一緒して参ります。」
陽一は、有香に改めて愛おしさを感じながら、安堵の息を吐き、 「有り難う。」 と短く礼を言った。

