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芦屋洋館秘話 ハウスメイドの献身ご奉仕
第4章 当主後継者 慶一

年が明けて、慶一は副社長に就任し、2週間ほどかけてシンガポールから欧州、米国を回って取引先に挨拶し、1月下旬に帰国した。志保の帰国は、勤め先の孤児院の都合から、3月中旬と決まった。年末年始をはさみ、青山家洋館では、以前に先代が使っていた一階寝室を慶一が使うための内装工事や、長い間、調度品の収納に使っていた古いハウスメイド室を、志保のために改修する工事が、慌ただしく進められた。
雪花の交じった六甲おろしが吹き下ろす寒い日、慶一は初めて青山家洋館に入った。その日、明治時代から何代にもわたって、青山家と公私の関係が続く取引先の当主5人が招かれ、玄関から奥に直接つながる客間ホールで、慶一の副社長就任を披露する夕食会が催された。
この5人は、青山家の事情を代々の口伝で引き継いでおり、慶一がこの副社長就任を機に、当主陽一の実子として戸籍上に認知され、近い将来に家を継ぐ立場になったことを、暗黙のうちに承知していた。慶一が、既に社業で相当の才覚を示していることも直接見ており、夕食会は、良い後継者が出来てうらやましいという雰囲気に満ちていた。洋館の地下室に永く貯蔵されてきた1982年物ボルドーのシャトー・レルミタージュなども振る舞われ、遅くまで朗らかな笑い声と興奮気味の会話が続いた。

