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芦屋洋館秘話 ハウスメイドの献身ご奉仕
第1章  当主 陽一 ~ 青山家の秘密
「シンガポールの支店でね、慶一君の仕事ぶりを見てきたんだ。外航船貸出しの営業では、世界の中心地なんだけど、慶一君は責任者として、社内や取引先にも信頼されて、立派にやっていたよ。・・・そろそろこちらに呼び戻して、数年間は副社長として経験を積んでもらって、僕が60歳を越えるころには社長職を譲ろうと思っているんだ。・・・涼子さんがあの子を生んでくれたおかげで、青山家に立派な後継ぎができた。あなたの献身的な奉仕に感謝しているんだ。」

「有り難いお言葉です。慶一様の成長は、私も嬉しく存じています。」

「そうは言っても、親子の名乗りをしないまま、見守るしかなかったのは、つらいことだったね。・・・青山家の<しきたり>というのはね、家業を永く続けて、社員が安心して暮らせるように、何と言っても、代々しっかりした当主が家を継いでいくための工夫なんだよ。<当主は妻をめとらず、聡明な女中を選んで子を儲け、家の外に出して養育する。そして、当主の器と見極めた子を家に呼び戻して後継ぎにする>ということが、もう三百年ほども続いているわけだけど。妻の実家筋が傾いて波をかぶるとか、兄弟で跡目争いをして家業が割れるとか、そんなことも防げるしね。しかし、・・・やはり時代も変わっているんで、子を手離す生みの親や、親なし子として育てられる子供にとっては、つらい<しきたり>かなと、ずっと心が痛かったんだ。」
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