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私じゃなくても
第3章 友達のライン
side ワンちゃん
優しいな…
お願いしなくても
千華を抱いてくれるなんて。
それに
『お疲れさん』なんて…
千華を産んでから
はじめて言われたかも。
「あぁ…ほんま赤ちゃんは
ふわふわしてんな…
なんでこんなやわやわなんやろ」
早瀬さん
すごく優しい笑顔。
やっぱり…
勇気を出してここに来てよかった。
千華も泣かずにご機嫌だし
私も……救われる。
「千華は早瀬さんのこと
お気に入りみたい」
「ほんまに?」
「うん。泣かないから」
「奥村さんは?寝てる?」
あ、そうよね。
私と早瀬さんの間に何も無くても
私達が会ってるところを
タカくんに見られない方がいいって
早瀬さん気にしてるのかも。
「大丈夫です」
「え?」
あ、やだ
私、意味深な返事しちゃったかも。
「あ、いえ。
寝てます。ぐっすり。
あ、あの
千華が泣き出したから
起こさないように出てきたんです」
「そぉかぁ。
千華ちゃん泣いてもうたんかー」
早瀬さんは
千華にそう言いながら
微笑みかけた。
千華、ごめんね。
千華のせいにしちゃって。
ほんとは泣いてなんかなかったのに。
畳の上で寝てしまった私が
途中で目を覚まし
なんだか…悲しくなってベランダに出ると
早瀬さんが見えて
それで
つい
千華を連れてココに……
「パパ起こさんようにとか
ママは優しいなぁ」
「そ、そんなことないの。
明日、主人は早起きだから
寝かせてあげないと」
「早起き?」
「うん、ゴルフで」
「ゴルフ?」
その時
ちょっと早瀬さんの声色が
変わった気がした。
「出張から帰ってきたばかりだから
しっかり寝ないと
体調崩すといけないから」
そう言うと
早瀬さんは少し私の方に身体を向けて
私に視線を合わせた。
や、やだ
公園の灯りなら大丈夫だと思って
急いで降りてきたけど
私、お風呂も入ってなくて
お化粧もほとんどしてなくて
今、どんな髪してるのかも
分からない。
鏡くらい
見てくればよかった……
一瞬にして
色んなことが気になりはじめた私は
着ているパーカーの襟元を
少し立てて前髪を指先で整えた。
そんなことしても
なんの意味もないのだけど。