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奸計〜罠に堕ちた女達〜
第32章 肝試し
同時刻。

古びた部屋の1室。

物が散乱し、破れたソファ。壊れかけのテーブル。あちこちに割れた瓶や空き缶が転がる。

カーテンもなく、月夜の明かりだけが照らす部屋の中。ユラリと影が動く。

影からはゆっくりと白い煙が立ち昇る。その煙は煤汚れた天井にぶつかり消えていく。

影からはブツブツとした声が漏れる。

「なんで…。なんで俺が…こんな目に…。クソったれの世界だ…。復讐してやる…。絶対に…。ああ…。全部…全部壊してやるからな…。」

漏れてくる言葉は呪詛であった。

唸るような響きを持つその声は誰にも聞かれることなく、虚しく部屋に木霊する。

しかし、その延々とした呪詛が不意に途切れる。

その瞬間、影が素早く物陰に隠れるように移動する。

それをさせたのは外から入ってきた光。まっすぐ伸びるライトの光が一瞬だけ室内を照らしたのだ。

物陰で再び唸るような声が漏れる。

「誰だ…。誰だ誰だ…。俺の邪魔をしようとする奴は…。くそっ…。くそくそ…。何故だ…。何故静かに出来ない…。復讐だ…。俺の安寧を脅かす者には復讐だ…。」

男の言う安寧を破られたせいか、さらに強く怨念の籠もった呪詛が部屋を漂う。

影はゆっくりと動き始める。

自分の安寧を脅かす者達に鉄槌を下すために…。

本来、影が今の状況に陥ったことに関係は一切ないのにも関わらず、復讐心に満ちた影は怒りの感情を滾らせ、動き始めるのであった。

まもなく悲劇が始まろうとしていた…。
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