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Start Over Again
第10章 恋人というのは

「はぁ? さんざんセックスして愛し合ったのに嫌がるわけねーだろっ!」
声を荒げる東に、あの頃の光景がフラッシュバックする。
いやだ、怖い、、。
「「おい、さすがにやばいって…」」
「「お客様…他のお客様のご迷惑になりますので…」」
「「こんな公衆の面前で、そういう発言をすることもありえないですよ。これ以上続けるのであれば…」」
「「山之内? 大丈夫、俺らがついてるから…」」
店内のざわめきに混じって声がするけど、何を話してるのかわからない。
耳の中にさらに膜が張ったような――
あれだ、水の中に潜ったときのような。
聞こえてるようで、よく聞こえない。
息が詰まる。
やめて、と言いたいのに声を出すのが怖い。
体はどんどん冷えていくのに、目頭が熱い。
こんな人のために泣きたくなんてないのに。
悔しい、悔しい。
「けいちゃんっ!」
澄んだ…きれいな声がする。
「けいちゃんっ!」
引き戻してくれる唯一の声。
……ああ、朔ちゃんだ。
「さ…くちゃ…」
目の前に朔ちゃんがいる。
はぁはぁと肩で息をしながら私の顔を覗き込む。
「迎えに来たよ。帰ろう?」
穏やかでやさしい声色。
心底安堵して、先程とは違う涙が出る。
「かえる……かえ…りたい…」
すがるように朔ちゃんの腕を掴むと、
「うん、僕たちの家に帰ろう」
抱きかかえるように立ち上がらせてくれる。
朔ちゃんの体…熱い。
急いで来てくれたんだな、と思うと愛おしくて仕方ない。
いろいろと伝えたいことはあるけど、今は早くこの場を去りたい。
「すみません、あとは任せます」
誰かに話しかける朔ちゃんの言葉を耳にしながら重い体を引きずっていく。
「…さくちゃん…ごめんね…」
か細い声を出すと
「まーた謝る。けいちゃんが悪くないことで謝るの禁止!」
と明るく返してくれる。
それでも謝らずにはいられなくて、家に到着するまでの間、うわごとのように「ごめんね…」と繰り返していた。

