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Start Over Again
第2章 再会
バッグが置かれた後部座席に乗ろうとすると、朔ちゃんが瞬時に私の上着を引っぱって阻止した。
なぜ止められたのかわからずに黙って朔ちゃんへ振り返ると
「なんで後ろに乗ろうとしてるんです? こういうときは助手席でしょう! 前と後ろじゃ……会話もしづらいし! ほらほら、前に乗ってください!」
と有無を言わさず、助手席に押し込まれた。
そして出発してから10分。
赤信号で一時停止した車内はシーンとしている。
なぜなら、会話もしづらいし! と言っていた本人が一言も言葉を発さないからだ。
会話はどうした。
そう思いながら横目で朔ちゃんを見ると真剣な眼差しで正面の信号をじぃーっと見つめていた。
「くくっ…」
そんなに信号を見つめることある? と思わず笑うと、えっ? と朔ちゃんがこちらへ顔を向けた。
「どうしたんですか?」
「ううん。なんでもない」
「え、なんで笑ったか教えてくれないんですか?」
「うん、教えない。ほら、青になったよ」
信号を指差すと、ゆっくり車が動く。
はぐらかした私に不満げな様子の朔ちゃんは少し頬を膨らませていた。
かわいいなぁ。
と思いつつ視線を窓の外へ向けてしばらくすると、ポツポツと雨粒がフロントガラスを濡らした。
「あ、雨…」
心の中で言ったつもりが言葉に出ていた。
「ああ、降ってきましたね。予報では晴れだったのに…」
私の言葉に相づちをうち、ハンドル付近を操作する朔ちゃん。
ワイパーが定期的に動き出し、雨粒をはじく。
しばらく雨音とワイパー音を聞きながら黙っていると
「恵香さん……雨の日って好きですか?」と朔ちゃんが聞いてきた。
先程までとは違う、トーンを落とした声。
怒ってるのかと思ってうかがうように顔を向けるけど、信号を見つめていた真剣な眼差しと変わりなくて、横顔だけでは怒ってるかなんてわからなかった。
「んー、好きではないなぁ」
濡れるし湿気で髪はうねるし雨の日はいいことがない。
「僕も雨の日は嫌いです。どうしてか、わかりますか?」
どうしてか?
何でそんなこと聞くんだろう。
「え……わからない。どうして?」
聞き返したタイミングで車が停止する。
「……恵香さんのせいです」
そう言って苦しそうに眉を寄せた朔ちゃん。
その顔を見て――…
私は、あの日を思い出した。