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Start Over Again
第3章 契約書
「咲子。咲子がいろいろ考えてくれたことは嬉しいし、それに関してはありがとう。だけど、朔ちゃんとルームシェアっていうのは常識的にもどうかな…」
いろいろ考えたけど、こう言うのが正解だろう。
「いくら幼なじみでも、結婚前の男女がひとつ屋根の下なんて…」
あれ、私なんかオヤジくさいこと言ってる? と内心考えていると
「私がそんな一般常識を考えると思う?」と咲子が肩をすくめ、「いや…考えないよね……」と正直に答える私に満足げに笑う。
「正解! 今どき男女のルームシェアなんてめずらしくないし、出会い目的でわざわざルームシェア物件に住むって人もいる世の中だよ? 幼なじみがいっしょに暮らしたって問題ないでしょ! ってのが私の考え」
やけに恋愛市場に詳しい咲子に驚きつつ愛想笑いで反応する。
「だからさ、お試しと思って半年だけ暮らしてみてよ。それでけいがやっぱり朔と住むの無理! って思うなら半年後に引っ越していいから。たった半年だよ? アラサーの半年なんてあっという間だから」
「確かにアラサーの半年は早い…って、アラサー言うのやめい!」とツッコみつつも、やけに ”半年” を連呼するなぁ。と思い
「なんで半年? お試しなら2~3ヶ月でもよくない?」とたずねると
「けい、忘れたの?」と大げさにため息を吐いて咲子は自身のバッグから透明ファイルを取り出した。
その中から引き出した書類をひらひらさせて
「母さんと契約したでしょ?」とにやりと笑う。
目に映ったのは数日前に由美子さんと交わした契約書。
由美子さんの文字を見てすぐ箇条書きの内容を思い出してハッとする。
「…退去する際、いかなる理由においても半年前の申告・申請をすること…(これらに当てはまらない場合、退去できないものとする。)……」
()の内容までしっかり覚えていた自分にも驚いたが、そういうことか! と謎が解けてサァァァーと血の気が引く。
「正解! さすが、けい~~!! 記憶力やばいね!」
今は褒められても嬉しくない。
「というわけで、二人とも、ここには最低でも半年は住まなきゃいけないってこと」
ん? 二人とも? と咲子の言葉が引っかかる。
「待って。なんで二人とも? 朔ちゃんだけでも別のマンションに引っ越せば……」
そう言いながら朔ちゃんに目を向けると、パッと目を真下にそらされた。