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Start Over Again
第3章 契約書
…朔ちゃん? なぜ今、目をそらしたの?
嫌な予感がして咲子へ目を向けると
「ええ。もちろん、朔も契約書にサインしております」
とこういうときだけ無駄に敬語を使う咲子に少しイラッとする。
「何か他に質問は?」と言う咲子に黙って首を振る。
契約を交わした以上、それに従わなくてはならない。
契約の重みというものを痛感し、はぁー…とため息を吐くと体から力が抜けるのを感じた。
ふらつきながら朔ちゃんの隣に座りこむと「けいちゃんっ!?」と心配した様子で朔ちゃんが私の顔を覗き込む。
私の瞳にどアップで映る朔ちゃんの顔。
ここはドキッと胸をときめかせるタイミングなんだろうけど、これからの生活のことを考えて憂鬱な私は
毛穴ないじゃんかよ、ちくしょう!
と20歳のつるつるお肌がうらめしい気分。
「あ、そうそう。母さんから二人にメッセージがあるの」
咲子の言葉に朔ちゃんと私は首をかしげる。
スマホを触っていた咲子が「あ、これこれ」と言ってスマホ画面をこちらに向けた。
映っているのは微笑んで手を振る由美子さんの姿。
メッセージって動画のことか。と思っていると
「けいちゃーん。さっくーん。お母さんですー。聞こえてるー?」
と由美子さんの問いかけから始まった。
聞こえてるー? と言っちゃう由美子さんのたまに出る天然発言にほんわかする。
「さっそく本題に入るけど、けいちゃんとさっくんが同棲するのに反対はしていません。むしろ賛成っ! 大大大、大賛成です!!」
ゆ、由美子さん…?
同棲じゃなくて、同居と言ってください…
というか、賛成なんですか!??
「けいちゃんのことは実の娘のように思ってるし、幸せになってほしい。この際、さっくんと既成事実でもつくって本当に娘になりませんかー?」
さらっと、とんでもないことを言う由美子さんに戸惑う。
隣では朔ちゃんがガクっとうなだれて「なに言ってんだよ…」とため息を吐いていた。
「自分の子だからと贔屓目を外しても、うちのさっくんは優良物件だと思うの。将来も安泰だと思うし。あとは……まだ誰色にも染まっていない、ってところも加算ポイントね!」
パチッとウインクする由美子さん。
誰にも……ということは朔ちゃんって…。
とちらりと隣を見ると両手で顔を隠している。よく見ると耳まで赤くなっていた。
…何ですか、この可愛い生き物は。