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Start Over Again
第1章 引っ越し
咲子に連れていかれたのは2階の角部屋だった。
本来ならば、3階の角部屋、この部屋の真上にある咲子の部屋を内見する予定だったが
「ごめん、彼が起きなくて。けいが来る前には帰ってもらうつもりだったんだけど……」
と申し訳なさそうに謝る咲子が急遽、同じ間取りの2階の部屋を準備してくれていたのだ。
間取りは3LDKで、玄関入ってすぐの右側に1部屋、廊下をすすんでリビングを抜けた先にあと2部屋ある。
うちの実家も一応3LDKだけど、そもそも団地だしなぁ、レベルが違うなぁ。
なんて思いながら豪華な内装と造りに内心はしゃいでいると、「ルームシェアするにはもってこいの広さでしょ?」と咲子が意味深に笑った。
普段の私なら、ん? と引っかかっていたかもしれないけど、ここに住めるなんて! と浮ついている今の私には気にならない。
そして約30分の内見が終わり、次に連れてこられたのは1階のフロント。
咲子がフロントのコンシェルジュに声をかけると、その人は機敏な動きでフロントの奥へと入っていき、しばらくすると戻ってきた。
「咲子様、山之内様。こちらへどうぞ」
うながされるままコンシェルジュのあとをついていく。
長い廊下の両側には会議室 休憩室 仮眠室 宿直室などさまざまな部屋があり、その一番奥の部屋に管理人室があった。
木目調のどデカい両開き扉をコンシェルジュがノックし、返事を確認して扉を開けるのを見つめながら、こんな豪華なマンションの管理って大変そうだなぁ。と考えているとこれまた馴染みあるハスキーボイスが耳に届く。
「けいちゃん!!」
すらりとした高身長に短く切り揃えられた前下がりボブの髪型をしたきれいな女性が私の名を呼ぶ。
咲子の母・由美子さんだ。
カツカツとヒールを鳴らしながら近づいてきたと思えば、勢いよく抱きついてきた。
「由美子さん、お久しぶりです。お元気そうですね」
きちんと名前で呼ぶ。
おばさん、と呼ぶと怒られるから。
「久しぶりね~会いたかったわ。もちろん元気よ。ほらほら、よく顔を見せて」
私の両頬へ優しく両手を添えて、にこにこしながら顔を観察してくる由美子さんの行動には慣れっこだ。
「けいちゃん、相変わらずかわいいわぁ」
そう言って、実の娘のようにかわいがってくれるところも正直、嬉しく思っている。