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Start Over Again
第8章 悪夢 と デート
床の冷たさを感じていると、頬からあごにかけて水滴がつたい落ちていく感覚があった。
あごを触って濡れた指先を見て、自分が泣いてることに気づく。
……まだ、泣いちゃうのか。
忘れられない自分に嫌気がさしてペットボトルをグシャリと握り潰して床に叩きつける。
思ったより音が響いて、ハッとした。
この家には朔ちゃんもいて、一人ではないのに何をしてるんだ。しかもこんな夜中に迷惑な…といくらか冷静になって立ち上がろうとすると、キィ…と音がして朔ちゃんの部屋のドアが開いた。
こちらをうかがうように部屋から出てきた朔ちゃんと目が合う。しまった! とパッと顔を下にそらす。
「……けいちゃん?」
スタスタと近寄ってきた朔ちゃんが座り込んだ私の目の前で足を止める。
そして私と同じように座り込んで「どうしたの?」とつぶやくようにたずねてきた。
泣いてる顔を見られたくなくて、うつむいたまま「変な夢みちゃって…でも大丈夫だから…」と言うと
「こっち向いて。顔見せて」と朔ちゃんが私の手に触れる。
ビクッとしながら首を横に振る。
「…い…や……」
「どうして?」
「見られたく…ない…」
「…そっか。じゃあ、顔は見ないから、ソファーに座ろ? 床は冷たいでしょ」
そう言って私を抱えるようにして立ち上がらせてソファーに座らせてくれる。
「寒くない?」
横に座って背中をさすってくれる手が温かくて目頭が熱くなる。
両手で顔を押さえてこれ以上泣かないように必死に抑えていると、優しく抱きしめられた。
ヨシヨシとゆっくり頭を撫でられて、もう抑えられない。
痛みを吐き出すように声を出して泣いた。
幼い子どもが駄々をこねるように、みっともなく。
気が済むまで泣き続けた頃には顔面ぐちゃぐちゃで、泣き止んでヒック…ヒック…と余韻が残るあいだも、朔ちゃんは黙って頭や背中を撫でてくれていた。
「……朔ちゃ…ごめ…ん…」
「何で謝るの?」
「こんな…みっともなく泣いちゃって…ヒック…」
泣きすぎて、しゃっくりのようなものが止まらないでいると、ふっ…と朔ちゃんが笑う音がした。