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Start Over Again
第8章 悪夢 と デート
「ぐっ! …けいちゃん!? 何で殴るの!?」
目を見開いて驚いた声を出す朔ちゃん。
腕から力が抜けたのを見計らって体を離してソファーから立ち上がり、洗面所へと向かう。
バシャバシャと水で勢いよく顔を洗うとすっきりした。
タオルで拭いて化粧水で肌を整えていると、いつの間にかついてきてた朔ちゃんが後ろから抱きついてきた。
「…怒った?」
鏡越しに探るような目で見つめてくる朔ちゃんから目をそらして「うん。怒った」とそっけなく言うと、ギュウゥゥと強く抱きしめられる。
「やだ。怒んないで。嫌いにならないで…」
すがるような声で言われて、ああ…もう! と心の中で叫ぶ。
「もう怒ってないよ。嫌いにもならないから、力ゆるめて」
「ほんとのほんとに??」
一瞬で表情を明るくして私の顔を覗き込んでくる朔ちゃん。
こういう大型犬いるよな…と思いながら力をゆるめてくれたことにホッとして「うん。本当だよ」と言うと、首の後ろに唇が触れる。
チュッ、チュッ、と耳や鎖骨あたりにも優しくキスされてくすぐったい。
「ちょ…どこに…」
ピクッと反応する私の体を腕の中でくるりと回転させて
「…良かった。嫌われたら…僕、生きていけない」
と安堵したように息を吐いて危ないことを言う。
「そんな、大げさな…」
「大げさなんかじゃない。……けいちゃんと会えなかったあいだ…僕がどんな気持ちで生きてきたか知らないから、そんなひどいこと簡単に言えるんだ…」
目を伏せて、いじけモードになった朔ちゃんを見て、確かにそうだな。と思った。
最後に会ったあの日から、咲子に聞けばすぐわかるのに朔ちゃんがどうしているのか知ろうとしなかった。
逃げるように会うのをやめた私をどう思ったのか、どんな風に生活してここまで成長してきたのか、この6年間のことを何も知らない。
何も言えなくて顔を伏せると、すぐに両頬に手を添えられて顔を上げられた。
目と目が合った状態でじっと見つめられて逃げたくなる。
「…あの頃は僕も子どもすぎて何もできなかったけど、今はこうやってけいちゃんのそばにいられる。少しずつでいいから…僕のこと知っていってよ」
揺らめく瞳の中に私の輪郭が映っている。
朔ちゃんにはどこまで私がみえているんだろう…?
そう思いながら、ぼんやりと輪郭を見つめていた。