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木の実を集めて君にあげる
第7章 妊娠したけどあいつは居ない
江川さんが指定したのは、都内の大学病院近くのカフェだった。

中に入ってキョロキョロしてると、
痩せた中年男性が軽く手を挙げて、
「安西くん?」と声を掛けてくれた。


名刺を渡されて座ると、
「コーヒーで良いかな?」と訊かれて頷く。

どの程度、瑞樹ちゃんと宇田川亮平のことを知っているのかも判らないから、
とにかく、話を聞こうと思った。


コーヒーが置かれて、
僕が一口飲んだところで、
静かに話を始めた。


瑞樹ちゃんとは去年の暮れに行きつけのバーで知り合った。
亮平より自分の方が先に瑞樹ちゃんと話をして、
一目惚れしたけど、
亮平に持って行かれたよと笑う。

2人、仲良くやってたんだけどなと呟くと、
下を向いてしまう。


見ると肩を震わせて泣いているようだった。


「あっ…ごめん。
なんか、亮平が可哀想でさ。
折角、瑞樹ちゃんみたいに優しくて可愛い女の子に会えて、
これからってトコだったのに…」

えっ?
これからってトコって?
その後を聞くのが怖くなって、
ブルンと震えてしまう。


「亮平と会って行く?
話は出来ないかもしれないけど」と言って、
江川さんが伝票を持って立ち上がったので、
慌てて僕も立ち上がる。


そのまま、向かいにある病院に入って、
慣れた感じで受付に名前を書いて、
ビジターと書かれたカードを2つ受け取って、
1つを僕に渡して、マスクも手渡してきた。

真似をするように、
胸にビジターのカードをつけて、
マスクをして、江川さんと病院の中を進んだ。


ナースステーション近くの病室の入り口に、
ひとつだけ、名前が書いてある。

江川さんがノックをすると、
中に機械や管で繋がれて横たわる宇田川亮平が居た。


小柄な老女が、
小さく頭を下げて何かを言って外に出た。
多分、宇田川亮平のお母様だったんだろう。


「これって…?」

僕はそれ以上、何も言えない。


江川さんが椅子を勧めてくれて、
取り敢えず座った。


宇田川亮平は全く動くことはなかった。
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