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おっかない未亡人
第19章 クロワッサン
「クロワッサンがさくさくだ。」

「そりゃ、クロワッサンですからね。」

沢井と向かい合って朝食を食べる

昼から仕事だと言うので
工場の近くの喫茶店に場所を指定した

「こんな喫茶店があったなんて知らなかったですよ。ましてや男一人で入ろうなんて思いませんし。」

職人らしい手つきでクロワッサンを器用に剥いている
一方幸子は皮をポロポロごぼしていた

「はははっ。」

「下手でしょ?あたし苦手なの。」

「いや、ギャップだなって。完璧そうに見えるから。」

「全然。最近も恋人に振られましたもん。」

「やっぱり居たのか。でも振られるなんて、、よっぽどのことが、、。」

「亡くなった夫が恋人に乗り移るんですよ。でもあたしは黙って楽しんでた。で、喧嘩になりました。」

幸子は明るく話したが
沢井は心配そうにこちらを見ていて

ためらいがちに手に手を乗せてくる

「僕を、頼ってください。今日みたいに軽くご飯でもいいし。何でも付き合うから。」

職人特有の大きな手だった

この手に触れられたら揉まれたら
一瞬考えてポッとなる


「先輩、なんしてんすか朝から!」

職場の後輩らしき男性が数名店に入ってくる

「彼女さんすか?ん、この間取材に来てた、、」

「こんにちは。先日はどうも。」

幸子は沢井の手からさりげなく手を離す

「えー、いつの間にできてたんすかー。」

「もーあっちいってろ。」

後輩たちはクロワッサンを食べながら時々こちらを見ている


「すいませんね、うちの若いのが。男社会なので女性が一人居るだけでテンションが上がるんですよ。」

「仲良いんですね。みんなこっち見てニヤニヤしてる。」

「面白がってるだけですよ。出ましょ。」


沢井に促されて店を出た

もう霊とか似てるとかしがらみとか
関係ないところに行きたかった

「すみません、ご馳走になってしまって。」

「いいえ、楽しい朝ご飯でした。」

「じゃあ、お仕事頑張ってください。」

幸子が去ろうとすると

「三原さん、、僕始まるまでまだ時間あるんで、」

「はい。」

「良かったらうちに遊びに来ませんか。見せたいものがあるんです。」


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