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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第5章 従者と執事見習い〜従者の恋〜
伯爵に促され、狭霧は二人の方に歩み寄り、恭しく一礼する。
「初めまして。梨央様。
狭霧と申します。
旦那様の従者を務めさせていただいております。
どうぞよろしくお願いいたします」
「…狭霧…ね。
お父様の従者に会うのは初めてだわ。
…なんて美しいひとかしら…」
天使のように無垢な瞳で微笑まれ、図らずも狭霧の胸もきゅんとときめいてしまう。
…可愛らしいお嬢様だな…。
「…恐れ入ります。お嬢様」
…旦那様の気持ちも分かるな…。
梨央を抱いた伯爵の後ろに従い、そのまま広い玄関前に進む。
重厚な扉の前には、英国貴族に仕える使用人達そのままのテイルコート姿の執事、お仕着せを着た下僕たち、家政婦長、濃紺のメイド服を着たメイドたちがずらりと並んでいた。
その光景は圧巻ですらあった。
…まず、伯爵は左側に姿勢正しく佇む初老の執事の前に立った。
「…お帰りなさいませ。旦那様。
お帰りをお待ち申し上げておりました」
お辞儀の角度、長さ、声…すべてが完璧だ。
「ただいま、橘。
留守をよく守ってくれたね」
「恐れ入ります。
旦那様。
梨央様は大変お健やかにお利口様にお過ごしになられていらっしゃいました」
橘の梨央を見つめる眼差しに、優しい光が宿る。
「ああ、梨央。偉かったね」
伯爵は再び、梨央を抱きしめる。
梨央はくすぐったそうに小さく笑った。
伯爵が狭霧を振り返る。
「…橘。
私の新しい従者を紹介しよう。
泉狭霧だ。狭霧はまだ従者になって日が浅い。
色々教えてやってくれ」
橘がその厳めしい瞳を狭霧に当て、慇懃に頷いた。
「畏まりました。
…狭霧さん。どうぞよろしく」
狭霧は慌てて挨拶をする。
「泉狭霧です。どうぞよろしくお願いいたします」
…マレーさん張りに怖いのか、そうでないのか…まだ測りかねる。
…伯爵は続いて家政婦長を労い…その隣に立つ長身のまだ若い下僕と思しき青年の前に立った。
「…やあ、月城。久しぶりだね。
ここの生活には少しは慣れたかな?」
月城と呼ばれた青年は礼儀正しく一礼をし、控えめながらも凛とした口調で答えた。
「お帰りなさいませ、旦那様。
お陰様で、大分馴染ませていただきました」
…見上げた瞳が、そのまま狭霧を捉えた。
眼鏡越しの瞳が、やや眩しげに瞬かれる。
…これは…めちゃくちゃ綺麗な青年だな…。
狭霧は思わず眼を見張った。
「初めまして。梨央様。
狭霧と申します。
旦那様の従者を務めさせていただいております。
どうぞよろしくお願いいたします」
「…狭霧…ね。
お父様の従者に会うのは初めてだわ。
…なんて美しいひとかしら…」
天使のように無垢な瞳で微笑まれ、図らずも狭霧の胸もきゅんとときめいてしまう。
…可愛らしいお嬢様だな…。
「…恐れ入ります。お嬢様」
…旦那様の気持ちも分かるな…。
梨央を抱いた伯爵の後ろに従い、そのまま広い玄関前に進む。
重厚な扉の前には、英国貴族に仕える使用人達そのままのテイルコート姿の執事、お仕着せを着た下僕たち、家政婦長、濃紺のメイド服を着たメイドたちがずらりと並んでいた。
その光景は圧巻ですらあった。
…まず、伯爵は左側に姿勢正しく佇む初老の執事の前に立った。
「…お帰りなさいませ。旦那様。
お帰りをお待ち申し上げておりました」
お辞儀の角度、長さ、声…すべてが完璧だ。
「ただいま、橘。
留守をよく守ってくれたね」
「恐れ入ります。
旦那様。
梨央様は大変お健やかにお利口様にお過ごしになられていらっしゃいました」
橘の梨央を見つめる眼差しに、優しい光が宿る。
「ああ、梨央。偉かったね」
伯爵は再び、梨央を抱きしめる。
梨央はくすぐったそうに小さく笑った。
伯爵が狭霧を振り返る。
「…橘。
私の新しい従者を紹介しよう。
泉狭霧だ。狭霧はまだ従者になって日が浅い。
色々教えてやってくれ」
橘がその厳めしい瞳を狭霧に当て、慇懃に頷いた。
「畏まりました。
…狭霧さん。どうぞよろしく」
狭霧は慌てて挨拶をする。
「泉狭霧です。どうぞよろしくお願いいたします」
…マレーさん張りに怖いのか、そうでないのか…まだ測りかねる。
…伯爵は続いて家政婦長を労い…その隣に立つ長身のまだ若い下僕と思しき青年の前に立った。
「…やあ、月城。久しぶりだね。
ここの生活には少しは慣れたかな?」
月城と呼ばれた青年は礼儀正しく一礼をし、控えめながらも凛とした口調で答えた。
「お帰りなさいませ、旦那様。
お陰様で、大分馴染ませていただきました」
…見上げた瞳が、そのまま狭霧を捉えた。
眼鏡越しの瞳が、やや眩しげに瞬かれる。
…これは…めちゃくちゃ綺麗な青年だな…。
狭霧は思わず眼を見張った。