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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第5章 従者と執事見習い〜従者の恋〜
確かに月城は若いのに冷静沈着、そして謙虚で控えめ、空気を読み、決して出しゃばらなかった。
休憩時間、仲間の使用人たちが騒いでもひとり物静かに日誌を付けている…。
…そんな使用人のお手本のような人物だった。 
大学に行っている時間以外はほぼ休みも取らず、きびきびと陰日向なく、よく働いていた。

「…月城くん、君さあ…」
階下の作業室で銀食器を器用に磨く月城に、狭霧は話しかける。
「はい。なんでしょう。狭霧さん」
きちんと手を止め、狭霧の貌をじっと見る。
…真面目だなあ…。

隣りの椅子に座り、貌を覗き込む。
「…モテるでしょ?大学で」
「え?」
何を言われたか分からないというように眼鏡の奥の端正な瞳を瞬かせる。
「大学でモテモテでしょ?
こんなにハンサムだもの」
やっと意味が分かったのか、月城は慌てて首を振った。
「…そんなこと…ありません。
私は狭霧さんみたいに洗練されて華やかでも美しくもないですし…」
「そんなことないよ。
君は凄く美形で魅力的だよ。
もっと自信を持っていいのに」

「…揶揄わないでください」
再び銀食器磨きに専念する。
…ちょっとちょっかいが過ぎたかな…と反省する。
「別に揶揄ってないよ。
俺は本当に感じたことしか言わない。
でも、気を悪くしたならごめん」
やや甘えたように囁く。

すると月城は、困ったような貌をして、狭霧を見上げた。
「…いいえ。
…あの…私は北陸の田舎育ちなので、狭霧さんみたいに気の利いた楽しい会話も出来ないのです。
私の方こそ白けさせてすみません…」
殊勝に詫びる様は本当に素直だ。
狭霧は思わず、月城を抱きしめる。
…ひんやりとした水仙の薫りが、彼からはした。
「可愛いなあ、君は」
「ちょ…っ…あの…狭霧さ…ん」
月城が眼を丸くする。
「…なんだか弟を思い出すよ」
「…弟…さん…?」
「…うん。
ユキって言って、すごく素直で可愛くてさ。
俺によく懐いてくれていたんだ。
…元気かな…」
…貌立ちは全然違うけれど、素直で真面目なところはそっくりだ。
ユキももうそろそろ大学生か…。
大学には行けるのだろうか…。
ぼんやり考えていると、
「…あの…狭霧さん…。
せっかく帰国されたのですから、お会いになられたらいかがですか?」
狭霧の腕の中で、遠慮勝ちに月城が尋ねた。


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