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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第5章 従者と執事見習い〜従者の恋〜
「…会いに…ね…」
月城を抱きしめる腕を少し緩め、その白皙の貌を覗き込む。
「…俺の噂、聴いてないの?
橘さんとかから…」
月城は、きょとんとした表情をし、首を振った。
「いいえ、何も…」
狭霧はふっと片頬だけで笑い、わざと自虐的に告げた。
「…俺は子爵のお坊ちゃまを騙して、パリに駆け落ちさせて、挙げ句の果てにそのお坊ちゃまを殺してしまったヤバい奴なんだよ」
「…え…?」
月城が驚愕の表情を浮かべる。
「…て、言うのは誇張表現だけど、半分は本当だよ。
恋人は酔っ払いの喧嘩に巻き込まれて殺された…。
…俺と関わらなきゃ、そんなことで死ななくて済んだのは事実だ…」
…一年以上経ったけれど、やはり口にすると胸が張り裂けそうになる。
「…狭霧さん…」
同情されたくなくて、空気を変えるようにわざとあっけらかんと肩を竦めて見せる。
「…そんなサイテーな奴なんだ。
ああ、そうだ。あと、俺は男女問わず寝られる。
…もっとも、今は未亡人だから慎んでいるけれどね…」
茶化した言葉に、最初は意味が分からなかったようだが、やがて察知したのか、その怜悧な美貌を赤らめた。
「…あ…あの…」
…反応がいちいち可愛いな。
狭霧は小さく笑った。
「…慎んでいるけれど、近くにこんなに美しくて素敵な子がいたら、よろめいちゃうかも知れないな…」
薄桃色に染まった耳朶に、蠱惑的に囁いた。
「さ、狭霧さん…?」
…と、扉が開く音が聞こえ…
「…月城。
お嬢様がお呼びだ。お部屋に伺いなさい」
執事の橘が現れ、淡々と命じた。
「は、はい。今行きます」
月城は素早く立ち上がり、狭霧に一礼すると作業部屋を後にした。
橘は咎めるふうではなく、静かに釘を刺した。
「…狭霧さん。
月城はまだまだ奥手で純粋な青年です。
余り揶揄うのは困ります」
月城を抱きしめる腕を少し緩め、その白皙の貌を覗き込む。
「…俺の噂、聴いてないの?
橘さんとかから…」
月城は、きょとんとした表情をし、首を振った。
「いいえ、何も…」
狭霧はふっと片頬だけで笑い、わざと自虐的に告げた。
「…俺は子爵のお坊ちゃまを騙して、パリに駆け落ちさせて、挙げ句の果てにそのお坊ちゃまを殺してしまったヤバい奴なんだよ」
「…え…?」
月城が驚愕の表情を浮かべる。
「…て、言うのは誇張表現だけど、半分は本当だよ。
恋人は酔っ払いの喧嘩に巻き込まれて殺された…。
…俺と関わらなきゃ、そんなことで死ななくて済んだのは事実だ…」
…一年以上経ったけれど、やはり口にすると胸が張り裂けそうになる。
「…狭霧さん…」
同情されたくなくて、空気を変えるようにわざとあっけらかんと肩を竦めて見せる。
「…そんなサイテーな奴なんだ。
ああ、そうだ。あと、俺は男女問わず寝られる。
…もっとも、今は未亡人だから慎んでいるけれどね…」
茶化した言葉に、最初は意味が分からなかったようだが、やがて察知したのか、その怜悧な美貌を赤らめた。
「…あ…あの…」
…反応がいちいち可愛いな。
狭霧は小さく笑った。
「…慎んでいるけれど、近くにこんなに美しくて素敵な子がいたら、よろめいちゃうかも知れないな…」
薄桃色に染まった耳朶に、蠱惑的に囁いた。
「さ、狭霧さん…?」
…と、扉が開く音が聞こえ…
「…月城。
お嬢様がお呼びだ。お部屋に伺いなさい」
執事の橘が現れ、淡々と命じた。
「は、はい。今行きます」
月城は素早く立ち上がり、狭霧に一礼すると作業部屋を後にした。
橘は咎めるふうではなく、静かに釘を刺した。
「…狭霧さん。
月城はまだまだ奥手で純粋な青年です。
余り揶揄うのは困ります」