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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第5章 従者と執事見習い〜従者の恋〜
狭霧は素直に詫びる。
「すみません。
月城くんがあんまり可愛くてつい…。
すごく良い青年ですね」

橘は穏やかに答える。
「…月城は、故郷の能登では色々苦労していたらしいのです。
父親が不在で、幼い頃から家計を助けるためにさまざまな仕事を掛け持ちしつつ、独学で学業を修め…。
今も給金の殆どは実家に仕送りしています。
休日もひたすら勉学に励んでいます。
まだ若いですが、間違いなく優秀な執事になれる青年です」

…偉いな…。
ひたすら感心する。
…俺なんて彼の年には、親の金で大学に行き…ろくに授業も出ずに中退し、不良仲間たちと自堕落に遊び呆けていた…。

…和彦に出逢うまでは…。

「…そんな前途有望な青年が俺みたいな曰く付きの怪しい男に誑かされたら、困りますよね」
ふふ…と軽く笑いながら答える。

橘はちらりと狭霧を見遣る。
「…貴方は自分のことをそんなふうに思われているのですか?」
逆に質問され、狭霧は肩を竦める。
「旦那様や巴里のマレーさんにお聞きになっていませんか?
俺の過去の経歴を。
…名門北白川伯爵家の当主の従者にはおよそ相応しくない経歴です」

橘は全く動じずに、じっと狭霧を見つめ返した。
「…私は旦那様には貴方のことを『巴里で今まで見たこともないような美しい従者を雇った』と伺いました」

「…あ…そ…」
…やっぱり俺の取り柄は貌だけ…か。

橘は淡々と続けた。
「…それからこうも仰いました。
『その者は美しいだけでなく、繊細な心と同時に強い意志と不屈の魂を持った者だ。だから、これから大切に育ててゆきたいのだ』と…」

…旦那様…!
胸に熱いものが込み上げる。
言葉に詰まる狭霧に、橘は初めて微笑みかけた。

「…それからマレーさんからの手紙には貴方のことを『慌て者で生意気で言葉遣いも酷すぎる。
けれど、旦那様への忠誠心だけは誰にも負けないようだ』…と。
私が伺っているのはそれだけです」

狭霧は吹き出した。
「…やっぱり意地の悪い爺さんだ…」
橘に潤んだ瞳を見られないように、狭霧は窓から外を眺めた。

…裏庭のハーブの緑が眩しい。
日本は春なのだと、狭霧はようやく知るのだった。





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