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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第5章 従者と執事見習い〜従者の恋〜
「…月城くん…」
月城は再び丁寧にブラシを掛け始める。
その横貌は静謐で、どこか達観したものであった。
「…梨央様の婚約者様は縣男爵家の御子息様です…。
もう間も無く男爵の爵位もお継ぎになると伺っております。
…狭霧さんは旦那様の従者でいらっしゃるから、既にご存知ですよね?
縣様は度々、梨央様に会いに来られますから、狭霧さんもきっと直ぐにお目に掛かれますよ。
…大変な美男子でお賢くお人柄も良く人望もあり、とても魅力的な方です。
輝かしい地位や莫大な財産もお持ちです。
あの方以上の理想的なお相手は、居られないでしょう。
…だから…」
なんだか少し意地悪な気持ちになった。
「だから、諦めるの?」
「…狭霧さん…」
「諦めなくてもいいんじゃない?
…てか、まだ梨央様七歳でしょう?
あと十年くらい頑張ってみたらいいじゃない。
貴族がなんだよ。男爵がなんだよ。
礼也様は確かに美男子だけど、君だって負けてないよ。
大学だって同じ帝大だろう?
タイマン張れるじゃないか」
「さ、狭霧さん…。
ど、どうしたんですか…?」
狭霧の勢いに、月城は面食らったように驚く。
「大体さ、梨央様が誰を選ぶのか、まだ分からないじゃないか。
大人になった梨央様が、もしかしたら君を選ぶかも知れないじゃないか。
それなのに、もう諦めるの?」
詰め寄る狭霧に、月城は困惑した様に口を開く。
「…いえ、あの…狭霧さん…。
使用人とご主人様との恋愛は、ご法度なのです」
「そんなこと分かってるよ」
…使用人が、ご主人様に恋をしてはならない。
そんなこと、分かっている。
百も承知だ。
…だけど、人間はそんな簡単に割り切れるものだろうか。
好きになることを、止められるのだろうか。
月城は、感情を込めない声で続けた。
「こちらのお屋敷にお世話になる時に、執事の橘さんに言われました。
お嬢様に対してこの先、決して不埒な感情を抱いてはならない…と。
もし一線を超える様な感情を抱いたら、即解雇だと。
当然です。
身分が違いますから。
そんな畏れ多いこと、考えてはいません。
想像したこともありません。
…狭霧さんは勘違いをしていらっしゃるのです」
月城は再び丁寧にブラシを掛け始める。
その横貌は静謐で、どこか達観したものであった。
「…梨央様の婚約者様は縣男爵家の御子息様です…。
もう間も無く男爵の爵位もお継ぎになると伺っております。
…狭霧さんは旦那様の従者でいらっしゃるから、既にご存知ですよね?
縣様は度々、梨央様に会いに来られますから、狭霧さんもきっと直ぐにお目に掛かれますよ。
…大変な美男子でお賢くお人柄も良く人望もあり、とても魅力的な方です。
輝かしい地位や莫大な財産もお持ちです。
あの方以上の理想的なお相手は、居られないでしょう。
…だから…」
なんだか少し意地悪な気持ちになった。
「だから、諦めるの?」
「…狭霧さん…」
「諦めなくてもいいんじゃない?
…てか、まだ梨央様七歳でしょう?
あと十年くらい頑張ってみたらいいじゃない。
貴族がなんだよ。男爵がなんだよ。
礼也様は確かに美男子だけど、君だって負けてないよ。
大学だって同じ帝大だろう?
タイマン張れるじゃないか」
「さ、狭霧さん…。
ど、どうしたんですか…?」
狭霧の勢いに、月城は面食らったように驚く。
「大体さ、梨央様が誰を選ぶのか、まだ分からないじゃないか。
大人になった梨央様が、もしかしたら君を選ぶかも知れないじゃないか。
それなのに、もう諦めるの?」
詰め寄る狭霧に、月城は困惑した様に口を開く。
「…いえ、あの…狭霧さん…。
使用人とご主人様との恋愛は、ご法度なのです」
「そんなこと分かってるよ」
…使用人が、ご主人様に恋をしてはならない。
そんなこと、分かっている。
百も承知だ。
…だけど、人間はそんな簡単に割り切れるものだろうか。
好きになることを、止められるのだろうか。
月城は、感情を込めない声で続けた。
「こちらのお屋敷にお世話になる時に、執事の橘さんに言われました。
お嬢様に対してこの先、決して不埒な感情を抱いてはならない…と。
もし一線を超える様な感情を抱いたら、即解雇だと。
当然です。
身分が違いますから。
そんな畏れ多いこと、考えてはいません。
想像したこともありません。
…狭霧さんは勘違いをしていらっしゃるのです」