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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第5章 従者と執事見習い〜従者の恋〜
「…午後から縣男爵家のお茶会に招かれているのだ。
ネクタイと、カフスを選んでおいてくれ。
略式で良いから、余り堅苦しくない明るいものを頼む」
伯爵は狭霧を私室に呼び、告げた。

…そのまま、書斎の書き机に座り、手紙を書き出した伯爵を見つめ、狭霧は思い切って尋ねた。

「…怒っていらっしゃいますか?」
「うん?」
「月城くんに戯れたりしたから…」

伯爵はふっと微笑んだ。
「怒ったりしないよ。
…月城は大人びて見えるけれど、実はまだ奥手で純粋なのだよ。
際どい悪戯はほどほどにね…」
さもないことのように告げ、手紙の続きを書き出した。

…なんだ。
焼きもちも焼かないのか。
そりゃそうか。
俺のこと、特別に…思ってはいないんだから。

なんだか面白くないもやもやした気持ちに襲われる。
「…月城くんは綺麗だし良い子だし、私は気に入りました。
個人的に親しくなるのは、構わないでしょう?」
やや挑戦的に、尋ねる。

伯爵はペンの手を止め、狭霧を見上げた。
「…月城が好きなのか?」




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