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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第5章 従者と執事見習い〜従者の恋〜
「…好きです。
なんだか弟みたいで可愛いし、ついつい構いたくなるんです。
月城くんも私を慕ってくれますし、すごく気が合うんです」
最後はでっち上げだ。
伯爵は魅力的な目元でにこにこと微笑んだ。
「弟…ね。
いいんじゃないか。
橘を心配させない程度に仲良くしなさい」
狭霧はむっとした表情を隠そうともせず、形の良い口唇を引き結んだ。
「分かりました。
それでは、せいぜい仲良くさせていただきますッ!」
そう答えると…
「ネクタイとカフスボタンは寝室に置かせていただきましたッ!
お靴を見てまいりますッ!」
つっけんどんに言い放ち、書斎を出た。
…閉じた扉の向こうからは、可笑しげな笑い声が朗々と響いていた。
「…馬鹿にしてるよな…。
完全に馬鹿にしてる…!」
苛々しながら、狭霧は大階段を駆け降りる。
その勢いに、すれ違った若いメイドが眼を丸くした。
「ごめんね、驚かせて」
にっこりと作り笑いしながら、詫びる。
メイドは頬を染めながら、狭霧を見送った。
…どうして俺がこんな気持ちにならなきゃいけないんだよ…!
腹立たしいやらもどかしいやら、狭霧は己れの不可思議な感情を、ただただ持て余してしまうのだった。
なんだか弟みたいで可愛いし、ついつい構いたくなるんです。
月城くんも私を慕ってくれますし、すごく気が合うんです」
最後はでっち上げだ。
伯爵は魅力的な目元でにこにこと微笑んだ。
「弟…ね。
いいんじゃないか。
橘を心配させない程度に仲良くしなさい」
狭霧はむっとした表情を隠そうともせず、形の良い口唇を引き結んだ。
「分かりました。
それでは、せいぜい仲良くさせていただきますッ!」
そう答えると…
「ネクタイとカフスボタンは寝室に置かせていただきましたッ!
お靴を見てまいりますッ!」
つっけんどんに言い放ち、書斎を出た。
…閉じた扉の向こうからは、可笑しげな笑い声が朗々と響いていた。
「…馬鹿にしてるよな…。
完全に馬鹿にしてる…!」
苛々しながら、狭霧は大階段を駆け降りる。
その勢いに、すれ違った若いメイドが眼を丸くした。
「ごめんね、驚かせて」
にっこりと作り笑いしながら、詫びる。
メイドは頬を染めながら、狭霧を見送った。
…どうして俺がこんな気持ちにならなきゃいけないんだよ…!
腹立たしいやらもどかしいやら、狭霧は己れの不可思議な感情を、ただただ持て余してしまうのだった。