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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第5章 従者と執事見習い〜従者の恋〜
縣男爵家は、松濤のなだらかな坂を上がったところにあった。
…北白川伯爵家の屋敷に勝るとも劣らない豪奢な洋館を見遣り、伯爵は説明する。
「縣男爵は今、アメリカにいるのだ。
海外の生活が性に合っているそうだ。
早々に息子の礼也くんに当主の座と爵位を受け渡すらしい」
「では、礼也様がまもなく男爵様になられるのですね」
…益々、梨央様の婚約者に相応しくなるんだな…。
狭霧は月城のために、少し心を痛める。
けれど、礼也様は人間的にも素晴らしい方だから…。
なかなか悩ましい問題だ。
考えあぐねていると、車は正面玄関の車寄せに到着した。
狭霧は先に下車し、伯爵の為に扉を開ける。
伯爵が車から降り立つと、出迎えの列から颯爽と縣礼也が現れた。
「北白川伯爵。
ようこそおいでくださいました。
お待ち申し上げておりました」
…午後のお茶会ということで、ホスト役の礼也も春物の明るい色合いのジャケットにアスコットタイというラフな服装だ。
けれど、長身で凛々しく整った風貌の礼也が着ると、如何にも貴族の御曹司といった威厳が漂い、大層魅力的であった。
「お招きありがとう。礼也くん。
今日は盛会のようだね」
開け放たれた重厚な玄関扉の奥の賑やかで華やかな騒めきに、伯爵は眼を細めて微笑んだ。
「お陰様で。
今日はご招待以外の方もご紹介者様がお連れになるので、大盛況です。
…父のご友人は私では把握し切れず、右往左往ですよ」
鷹揚に答える様は、少しも慌ててはいない。
むしろ、余裕の表情である。
「お父上不在で、よくこれだけの会を主催された。
まだ若いのに立派なことだ。
これで、縣も安心して海外生活を楽しめるね」
「恐縮です。伯爵」
「梨央ももう少し大きくなったら連れてこよう。
…相変わらず、はにかみやさんでね。
外出嫌いで、少し困っているよ」
礼也は首を振る。
「…梨央様は繊細なお心をお持ちなのです。
無理にお出ましになることはありません。
…それに…梨央様を人前に晒したくはありません。
本当は誰にも…」
控えめだが、それは梨央への情熱を秘めた愛の言葉だった。
北白川伯爵は、親しい仕草で礼也の肩を抱いた。
「…何より嬉しい言葉だ」
「恐れ入ります」
二人は微笑み合う。
…礼也がふと、伯爵の背後に控える狭霧に気づいた。
ああ…と眼を見張り、声を掛ける。
「…君はもしかして…」
…北白川伯爵家の屋敷に勝るとも劣らない豪奢な洋館を見遣り、伯爵は説明する。
「縣男爵は今、アメリカにいるのだ。
海外の生活が性に合っているそうだ。
早々に息子の礼也くんに当主の座と爵位を受け渡すらしい」
「では、礼也様がまもなく男爵様になられるのですね」
…益々、梨央様の婚約者に相応しくなるんだな…。
狭霧は月城のために、少し心を痛める。
けれど、礼也様は人間的にも素晴らしい方だから…。
なかなか悩ましい問題だ。
考えあぐねていると、車は正面玄関の車寄せに到着した。
狭霧は先に下車し、伯爵の為に扉を開ける。
伯爵が車から降り立つと、出迎えの列から颯爽と縣礼也が現れた。
「北白川伯爵。
ようこそおいでくださいました。
お待ち申し上げておりました」
…午後のお茶会ということで、ホスト役の礼也も春物の明るい色合いのジャケットにアスコットタイというラフな服装だ。
けれど、長身で凛々しく整った風貌の礼也が着ると、如何にも貴族の御曹司といった威厳が漂い、大層魅力的であった。
「お招きありがとう。礼也くん。
今日は盛会のようだね」
開け放たれた重厚な玄関扉の奥の賑やかで華やかな騒めきに、伯爵は眼を細めて微笑んだ。
「お陰様で。
今日はご招待以外の方もご紹介者様がお連れになるので、大盛況です。
…父のご友人は私では把握し切れず、右往左往ですよ」
鷹揚に答える様は、少しも慌ててはいない。
むしろ、余裕の表情である。
「お父上不在で、よくこれだけの会を主催された。
まだ若いのに立派なことだ。
これで、縣も安心して海外生活を楽しめるね」
「恐縮です。伯爵」
「梨央ももう少し大きくなったら連れてこよう。
…相変わらず、はにかみやさんでね。
外出嫌いで、少し困っているよ」
礼也は首を振る。
「…梨央様は繊細なお心をお持ちなのです。
無理にお出ましになることはありません。
…それに…梨央様を人前に晒したくはありません。
本当は誰にも…」
控えめだが、それは梨央への情熱を秘めた愛の言葉だった。
北白川伯爵は、親しい仕草で礼也の肩を抱いた。
「…何より嬉しい言葉だ」
「恐れ入ります」
二人は微笑み合う。
…礼也がふと、伯爵の背後に控える狭霧に気づいた。
ああ…と眼を見張り、声を掛ける。
「…君はもしかして…」