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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第5章 従者と執事見習い〜従者の恋〜
狭霧は深々と一礼をする。
「…泉狭霧でございます。
その節は、大変お世話になりました」
「…船で会って以来だね…。
君は北白川伯爵の従者になっていたのだね。
まさかここで会えるとは…。
また会えて嬉しいよ。
…君は相変わらず麗しいな…」
親しげに、偶然の再会を喜んでくれた。
「恐れ入ります。縣様」
恭しく一礼をする。

礼也は、やや声を潜めて告げる。
「…和彦くんのことは、本当にお気の毒だった。
心からお悔やみを申し上げるよ」
…貴族の世界は狭い。
恐らくは、和彦と狭霧のパリでの生活はとっくに礼也の耳に入っていたのだろう。
…和彦の非業の死のいきさつまでも…。

「何も力になれなくて、済まなかったね」
誠実な言葉には、温もりがあった。
…やはり、お優しい良い方なのだ…。
「…とんでもございません。
どうか、お気になさらないで下さい」
…パリまでの客船の手配に、ロッシュフォール公爵の紹介…。
礼也は充分に親切だったのだ。

「伯爵とはパリで知り合ったのか?
良い方とご縁が出来て良かったね。
伯爵は本当にお人柄から何からすべてに於いて素晴らしい方だよ。
私は伯爵を心から尊敬申し上げている。
この方のもとで働けるのは、君にとって最高の幸せだ」

賛辞の嵐に、北白川伯爵は悪戯っぽく目くばせしてみせた。
「そんなに褒められると、面映いな。
…どうやら我々は深い縁で結ばれているようだ。
礼也くん。
狭霧は従者としてまだまだ新米だ。
これから私に随行することも多々あるだろう。
末長くよろしく頼むよ」
「もちろんです。伯爵。
…狭霧。これからは私を友人だと思って接してくれ」
「…勿体ないお言葉、痛み入ります」

…伯爵は本当に思いやりのひとだと思う。
わざわざ従者の狭霧を、礼也によろしくと紹介することで、一目置かせる狙いがあるのだろう。
本来はそんな配慮は無用なはずだ。
狭霧は、ただの従者なのだから。
けれどその優しさに、ある特別な感情を見出すことは到底出来ずに、狭霧の胸はもやもやしたままなのだ。


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