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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第5章 従者と執事見習い〜従者の恋〜
「旦那様…!いいんです…私は…」
慌てて伯爵を制止しようとする狭霧を、伯爵は尚も背後に庇い続ける。
「お話は私の屋敷で伺いましょう。
こちらでは、礼也くんやご来客の方々にご迷惑が掛かります」

ホールに集まっていた来客たちは皆私語を止め一斉に、北白川伯爵と山科子爵夫人…そして新顔の水際立った美貌の従者に注目した。
北白川伯爵は普段こんな風に夫人に強固な態度は決して取らない。
常に女性を敬い、下に置かぬ丁重な対応をする筋金入りのフェミニストだからだ。
何よりも、山科子爵夫人の伯爵の従者に対する余りに激しい暴力と罵倒…。
一体、何が起こったのか…。
来客たちは固唾を飲んで見守っていた。

山科醇子は伯爵に冷笑を返した。
「何をわざわざご丁寧に。
たかが性悪な男娼風情を庇われますの?
北白川様ともあろう高貴なお方が」

…いいえ。
と、醇子は伯爵に向き直る。
「北白川様は騙されていらっしゃるのですよ。
この淫売に。
美しいのは貌だけ。
上っ面だけの邪悪で淫乱なこの悪魔に。
騙されてお雇いになったのだわ。
そうに決まってます。
わたくしの和彦さんのように…!」


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