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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第5章 従者と執事見習い〜従者の恋〜
自分だけ帰るからと言う狭霧を押し留め、北白川伯爵はその手を離さなかった。
「車に乗りなさい。
私も一緒に帰宅するよ」
慌てて狭霧は首を振る。
「いけません。旦那様。
お茶会は…」
…今日のお茶会は恐らくは北白川伯爵の帰国を祝しての名目で、礼也が主催したのだ。
その主賓の伯爵が不在では、縣家に礼を欠いてしまう。
「今は何より君が大事だ」
伯爵の手が、そっと狭霧の青ざめた頬に触れる。
…その手は凍えそうな狭霧の胸が締め付けられるほどに、温かかった。
礼也が車寄せに駆けつけ、二人にきっぱりと詫びる。
「伯爵、狭霧。
大変申し訳ありませんでした。
私が招待客のリストにもっとよく眼を通していたら…。
…山科子爵は、父の大学の同窓生でした…。
今も父と親交があったので、ご招待していたのでした」
礼也が猛然と頭を下げた。
伯爵が父親のような優しい仕草で、礼也の肩を抱いた。
「決して君のせいではない。
君は狭霧が私の従者になっていたことを、知らなかったのだ。
避けようにも避けきれない事態だ。
…けれど、お茶会は失礼させていただくよ。
他の来客の方々に、無用な気遣いや緊張を強いては申し訳ない。
この埋め合わせは必ずしよう。
…ああ、そうだ。
今度、君が引き取ったという弟ぎみを我が家に連れてきたまえ。
大層美しい少年だと聞いた。
ぜひ、我々に紹介してくれ」
礼也は漸くほっとしたような笑みを浮かべた。
「恐縮です。
弟…暁も喜びます」
…礼也は狭霧に労るように声を掛けた。
「…狭霧。
これに懲りずにまた伯爵と来てくれるね。
私は君ともっと親しくなりたいのだ」
…狭霧はただひたすらに申し訳なく、深々と一礼した。
このような事態を引き起こした者として、一刻も早くこの場を去たかった。
「…恐れ入ります。縣様」
…そうして、二人を乗せたロールスロイスは、速やかに縣邸を後にしたのだった。
「車に乗りなさい。
私も一緒に帰宅するよ」
慌てて狭霧は首を振る。
「いけません。旦那様。
お茶会は…」
…今日のお茶会は恐らくは北白川伯爵の帰国を祝しての名目で、礼也が主催したのだ。
その主賓の伯爵が不在では、縣家に礼を欠いてしまう。
「今は何より君が大事だ」
伯爵の手が、そっと狭霧の青ざめた頬に触れる。
…その手は凍えそうな狭霧の胸が締め付けられるほどに、温かかった。
礼也が車寄せに駆けつけ、二人にきっぱりと詫びる。
「伯爵、狭霧。
大変申し訳ありませんでした。
私が招待客のリストにもっとよく眼を通していたら…。
…山科子爵は、父の大学の同窓生でした…。
今も父と親交があったので、ご招待していたのでした」
礼也が猛然と頭を下げた。
伯爵が父親のような優しい仕草で、礼也の肩を抱いた。
「決して君のせいではない。
君は狭霧が私の従者になっていたことを、知らなかったのだ。
避けようにも避けきれない事態だ。
…けれど、お茶会は失礼させていただくよ。
他の来客の方々に、無用な気遣いや緊張を強いては申し訳ない。
この埋め合わせは必ずしよう。
…ああ、そうだ。
今度、君が引き取ったという弟ぎみを我が家に連れてきたまえ。
大層美しい少年だと聞いた。
ぜひ、我々に紹介してくれ」
礼也は漸くほっとしたような笑みを浮かべた。
「恐縮です。
弟…暁も喜びます」
…礼也は狭霧に労るように声を掛けた。
「…狭霧。
これに懲りずにまた伯爵と来てくれるね。
私は君ともっと親しくなりたいのだ」
…狭霧はただひたすらに申し訳なく、深々と一礼した。
このような事態を引き起こした者として、一刻も早くこの場を去たかった。
「…恐れ入ります。縣様」
…そうして、二人を乗せたロールスロイスは、速やかに縣邸を後にしたのだった。