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第5章 従者と執事見習い〜従者の恋〜

「…狭霧…」
伯爵の黒々とした瞳が、驚きに見開かれた。

一度口に出た言葉の続きを告げるのは、容易かった。
それは、深い山あいの源泉から湧き出でる清水の如く、狭霧の胸に溢れ、熱情の言葉と一気に化していった。

「…貴方が好きなんです。
報われなくても、愛されなくても、構わない…。
俺は貴方が好きだ…。
…多分、最初から…貴方に惹かれていた…。
ぼろぼろになって、パリの石畳みに転がっていたみすぼらしい俺に手を差し伸べてくれた貴方を見たときから…。
ずっと…ずっと惹かれていた…。
自分の気持ちを認めるのが怖くて…心に蓋をしていた…。
でも、やっぱり自分に嘘はつけない。
…貴方が好きです。
…だから、誰よりも貴方を穢したくない。
貴方には誰よりも輝いていてほしい。
俺のことで、少しでも貴方の存在が曇るようなことがあったら、俺は自分が許せない…！
…だから…」

伯爵のしなやかな手が、彼らしからぬ荒々しい仕草で狭霧を引き寄せた。

…だから…

「…っ…！」

…その言葉の続きは、男の性急な口づけに熱く溶かされ、跡形も無く消えてゆく…。

「…あ…あぁ…」

震える身体は、伯爵の逞しく引き締まった胸に抱き込まれていた。