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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第5章 従者と執事見習い〜従者の恋〜
…伯爵の口づけは、まるで狭霧を食い尽くすかのように猛々しく、情熱的で…そして、麻薬のように甘美であった。
…かつて、車中で与えたあの戯れのキスとは天と地ほどに違う官能的で濃密な…身も心も蕩けてしまいそうな口づけだ。

「…あ…あぁ…」

男は狭霧の傷つきやすい果実のような口唇を丹念に愛撫する。
やがて、肉厚で熱い舌が、強引に口内に侵入する。
…まるで口づけで、狭霧を荒々しく征服するかのように…。

「…や…んん…っ…」

…こんな…キスをするひとだったなんて…。
身体が甘く疼くような口づけは、久々だ。
その痺れるような性的な刺激に、息も絶え絶えになる。

「…どうした…?
…まるでうぶな少女のようだね…」
口づけの合間に、ふわりと微笑まれる。
その成熟した大人の余裕にむっとしつつ、男の首筋に腕を絡ませる。
長い睫毛を瞬かせ、淫靡に笑ってみせる。

「…貞淑な未亡人だからね…俺は…あっ…ん…!」
…再び顎を掴まれ、噛み付くようにキスされる。
激しく舌を絡められ、狭霧も伯爵の髪を乱しながらキスに応える。
…吐息を奪い合うように求め合い…やがて二人は音を立てて床に倒れ込む。

…波斯絨毯の上、硬質でしなやかな男の筋肉と均整の取れた骨格の重みを感じながら、狭霧は伯爵を濡れた眼差しで見つめる。

「…あんた…男もイケたの?」
伯爵は、大人の色香の漂う瞳を細め、狭霧の髪に口づける。
そうして、唄うように告げる。
「…私は、男女問わず美しいひとが大好きなのだよ」

「なんだよ。
女好きかと思ったら、両刀かよ」
つい、憎まれ口を聞いてしまう。

伯爵は小さく笑う。
「…けれど、こんなにもひとりの人間に欲情したのは、君が初めてだよ…。
…狭霧…」

…ぞくりとするほどに野生的な牡の眼差し…そして、欲望に濡れた声だった。



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