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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第5章 従者と執事見習い〜従者の恋〜
…けれど…
伯爵はじっと狭霧を見下ろし、やや苦しげに告げる。
「…このまま、君を抱いて良いのか…迷っている」
「…なぜ?」
「私は…君に何も約束をしてやれないからだ。
…君を愛してやれない。
私の愛する者は、梨央だけだ」
…苦しくて、哀しげな…そして途方もなく孤独な眼差しだった。
愛せないと言われたことより、そんな貌の男を見る方が辛かった。
…だから…
「…そんなこと」
狭霧は屈託なく笑った。
「そんなこと、ずっと前から分かっていたよ。
…あんたは俺を愛さない。
梨央様を誰よりも愛している。
…それから…
よく分からないけれど、あんたには忘れられないひとがいる…。
そのひとに、ずっと囚われている。
…もしかしたら、愛しているひとかも知れない。
だから、あんたは誰にも本気にはならない…。
…そんなこと、ずっと前から分かっていた。
それでも構わない。
…俺はあんたが好きだ。
だから、それでいい」
強がりではない。
本心からそう思った。
…愛されなくてもいい。
自分が愛しているのだから、それでいい。
それで、充分だ。
…和彦…。
俺は今、お前の気持ちが、痛いほど理解できたよ…。
狭霧は心の中で、そっと和彦に語りかけた。
…白くほっそりした手を、男に差し出す。
そうして、優しく囁いた。
「…俺が、あんたを愛しているから、それでいい」
伯爵の彫像のように端正な貌が一瞬、歪み…
「…狭霧…!」
…そのまま強く引き寄せられ、息もできぬほどに激しく長く…そして気が遠くなるほどに甘い口づけを与えられたのだった…。
伯爵はじっと狭霧を見下ろし、やや苦しげに告げる。
「…このまま、君を抱いて良いのか…迷っている」
「…なぜ?」
「私は…君に何も約束をしてやれないからだ。
…君を愛してやれない。
私の愛する者は、梨央だけだ」
…苦しくて、哀しげな…そして途方もなく孤独な眼差しだった。
愛せないと言われたことより、そんな貌の男を見る方が辛かった。
…だから…
「…そんなこと」
狭霧は屈託なく笑った。
「そんなこと、ずっと前から分かっていたよ。
…あんたは俺を愛さない。
梨央様を誰よりも愛している。
…それから…
よく分からないけれど、あんたには忘れられないひとがいる…。
そのひとに、ずっと囚われている。
…もしかしたら、愛しているひとかも知れない。
だから、あんたは誰にも本気にはならない…。
…そんなこと、ずっと前から分かっていた。
それでも構わない。
…俺はあんたが好きだ。
だから、それでいい」
強がりではない。
本心からそう思った。
…愛されなくてもいい。
自分が愛しているのだから、それでいい。
それで、充分だ。
…和彦…。
俺は今、お前の気持ちが、痛いほど理解できたよ…。
狭霧は心の中で、そっと和彦に語りかけた。
…白くほっそりした手を、男に差し出す。
そうして、優しく囁いた。
「…俺が、あんたを愛しているから、それでいい」
伯爵の彫像のように端正な貌が一瞬、歪み…
「…狭霧…!」
…そのまま強く引き寄せられ、息もできぬほどに激しく長く…そして気が遠くなるほどに甘い口づけを与えられたのだった…。