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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第5章 従者と執事見習い〜従者の恋〜
…微かな陽の光を感じる。
東の空が淡く太陽に染まるくらいの僅かな光だ。

狭霧はうっすらと、瞼を開ける。

…ここは…どこだ…。
昨晩までのベッドとは、どこか違う。
シーツの肌触りだろうか。
それとも、広さだろうか。

…無意識に身じろぎをして、ふと自分が温かくしなやかな腕にしっかりと抱かれていることに気づく。

…え…

…その引き締まった長く美しい腕の主は…。

間近に彫像のように端正で美しい伯爵の寝貌が、在った。

「…だ、旦那様…!」

思わず声が出て、慌てて口を抑える。

…やっちまった…!
心の中で、叫ぶ。

…旦那様と、寝てしまった…!
頭の中に、余りに甘美で淫らで激しい性の営みの一夜が走馬灯のように巡り、狭霧は頭を抱える。

『…使用人とご主人様との恋愛はご法度です。
ゆめゆめ、お忘れにならないように』

パリのマレーにも、ここの橘にも、初日にきつく言い渡されていたことだ。
…恐らく、狭霧を見て妖しげな何かを感じ取ったのに相違ない。

…寝てしまった…。
しかも、何回も…。
いやいやいや。
回数はこの際、関係ないだろう。
寝てしまったことが、問題なのだから。

狭霧は腕組みをして、無い知恵を絞る。

…とりあえず、このことは絶対に外部に漏らさないようにしなくては…。
俺と旦那様がデキていることは、絶対に知られてはならない。
絶対に、絶対に…。




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