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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第5章 従者と執事見習い〜従者の恋〜
一先ず狭霧は、伯爵を起こさないようにそっと寝台を抜け出す。

床に散らばる自分の衣服を拾い上げる。
暖炉の火を興そうと歩み寄り…
…昨夜、二人で食べ散らかしたチーズや果物や酒のグラス、瓶が無造作に暖炉前の波斯絨毯の上に置かれていた。

「…あ…」
…再び、昨夜の淫らな性交の記憶が生々しく蘇る。

『…お腹が空いただろう…。
狭霧…。
さあ、口を開けて…』
…伯爵が、熟れた苺を口移しに、狭霧に食べさせる。

『…ん…っ…』
…男の熱い舌が完熟した苺を送り込む。
そのまま苺をじわりと潰しながら、狭霧の舌にそれを絡めてくる。
甘酸っぱい果肉の味と薫り…。
…やがて伯爵はカルヴァドスを口に含むと、そのまま狭霧に飲ませた。
そして、そっと囁く。
『…苺と混ぜて飲み干してごらん…』
ノルマンディー地方でのみ作られる林檎の蒸留酒…。
目眩がするほどに薫り高く濃厚な林檎の酒の味に完熟した苺の甘味と風味が広がる。
頬が焼けつくように甘やかに火照る。
『…あ…んん…っ…』
…カルヴァドスよりも更に甘い口づけに、狭霧は酔いしれた…。

狭霧は我に還り、ぶるぶると頭を振る。
…だめだ。
思い出している場合ではない。
もうすぐ、橘さんの起床時間だ。
彼が来るまでに、退散しなくては…。

そそくさと服を着込み、暖炉前の食べ物をリネンごと撤収し、次の間の隅に置かれたワゴンの上に載せる。
…あとで片付ければいい。

狭霧はそっと、扉を開けて廊下に出た。

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