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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第5章 従者と執事見習い〜従者の恋〜
…まだ薄暗い廊下に、人の気配はない。
ほっとしつつ、階下に続く小階段に向かった狭霧の背中に、その小さくか細い声は掛かった。
「…狭霧…。
…お父様はどこ?」
狭霧は驚き、振り返った。
「…梨央様…!」
狭霧の眼の前に、北白川伯爵の愛娘、梨央が佇んでいた。
…梨央は純白のレースのベビードールドレス姿で裸足であった。
その白く可愛いらしい手にはお気に入りのテディベアがしっかりと握りしめられている。
…長く美しい黒髪、雪より白い肌、目鼻立ちはため息が出るほどに繊細に整い、その愛らしい口唇は、可憐な桜色をしていた…。
天使が人間の女の子になったら…きっとこんなふうに美しく清らかなのだろうと、誰もがうっとりと見惚れてしまうような美貌であった。
…その梨央は、今にも泣き出しそうな哀しげな表情を浮かべていた。
「…お父様…昨日梨央におやすみのキスをしに来てくださらなかったの…。
悲しくて泣きながら眠ってしまったら、こんなに早く目が覚めて…。
…ナニーに知られたら、叱られるけれど、お父様のお貌を見たいの…」
切々と訴える言葉を聴き、狭霧の胸はずきりと痛んだ。
…旦那様が梨央様におやすみを言いに行けなかったのは、俺のせいだな…。
狭霧はそっと微笑みながら梨央の元に歩み寄り、跪く。
「…梨央様。
旦那様はまだお休みでいらっしゃいます。
…昨夜急ぎのお仕事を遅くまでなさっていらしたので、梨央様のお部屋にいらっしゃれなかったのでしょう」
「…お仕事、終わったのかしら…?」
梨央は可愛らしく小首を傾げる。
「…え、ええ…。終えられたかと存じます…」
心の中でそっとぼやく。
…なんの仕事なんだか…。
梨央の長い睫毛が嬉しげに瞬く。
「じゃあ梨央、お父様のお部屋に行くわ!
お父様のベッドで一緒に寝るの!」
狭霧はぎくりとし、ぎこちなく作り笑いをする。
「…さ、さあ…それは如何なものでしょうか…。
お部屋は旦那様のお仕事の大切な書類や本で一杯です。
…それに…旦那様は一晩中、葉巻を吸われておられました。
また梨央様の気管支炎の発作が出られるといけませんので…」
…実に苦しい言い訳だ。
しかし、幼気な娘に愛する父親の淫らな事後の寝室に脚を踏み入れさせる訳にはいかないのだ。
…狭霧の言葉を聞き、梨央の愛らしい貌が見る見るうちに曇っていった。
「…だめなの?狭霧…」
ほっとしつつ、階下に続く小階段に向かった狭霧の背中に、その小さくか細い声は掛かった。
「…狭霧…。
…お父様はどこ?」
狭霧は驚き、振り返った。
「…梨央様…!」
狭霧の眼の前に、北白川伯爵の愛娘、梨央が佇んでいた。
…梨央は純白のレースのベビードールドレス姿で裸足であった。
その白く可愛いらしい手にはお気に入りのテディベアがしっかりと握りしめられている。
…長く美しい黒髪、雪より白い肌、目鼻立ちはため息が出るほどに繊細に整い、その愛らしい口唇は、可憐な桜色をしていた…。
天使が人間の女の子になったら…きっとこんなふうに美しく清らかなのだろうと、誰もがうっとりと見惚れてしまうような美貌であった。
…その梨央は、今にも泣き出しそうな哀しげな表情を浮かべていた。
「…お父様…昨日梨央におやすみのキスをしに来てくださらなかったの…。
悲しくて泣きながら眠ってしまったら、こんなに早く目が覚めて…。
…ナニーに知られたら、叱られるけれど、お父様のお貌を見たいの…」
切々と訴える言葉を聴き、狭霧の胸はずきりと痛んだ。
…旦那様が梨央様におやすみを言いに行けなかったのは、俺のせいだな…。
狭霧はそっと微笑みながら梨央の元に歩み寄り、跪く。
「…梨央様。
旦那様はまだお休みでいらっしゃいます。
…昨夜急ぎのお仕事を遅くまでなさっていらしたので、梨央様のお部屋にいらっしゃれなかったのでしょう」
「…お仕事、終わったのかしら…?」
梨央は可愛らしく小首を傾げる。
「…え、ええ…。終えられたかと存じます…」
心の中でそっとぼやく。
…なんの仕事なんだか…。
梨央の長い睫毛が嬉しげに瞬く。
「じゃあ梨央、お父様のお部屋に行くわ!
お父様のベッドで一緒に寝るの!」
狭霧はぎくりとし、ぎこちなく作り笑いをする。
「…さ、さあ…それは如何なものでしょうか…。
お部屋は旦那様のお仕事の大切な書類や本で一杯です。
…それに…旦那様は一晩中、葉巻を吸われておられました。
また梨央様の気管支炎の発作が出られるといけませんので…」
…実に苦しい言い訳だ。
しかし、幼気な娘に愛する父親の淫らな事後の寝室に脚を踏み入れさせる訳にはいかないのだ。
…狭霧の言葉を聞き、梨央の愛らしい貌が見る見るうちに曇っていった。
「…だめなの?狭霧…」