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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第5章 従者と執事見習い〜従者の恋〜
「…そ、そうだったのですね…なるほど…」
白皙の美貌を染めて恥ずかしそうに俯く。
…なるほど…て、納得しなくていいから早く梨央様を連れて行ってくれよ!
狭霧は必死に眼で訴え、拝み倒す。

…その時、扉が静かに開く音がしたかと思うと…

「…梨央。
随分早いお目覚めだね?
鶏さんもまだ夢の中だよ」
優しいバリトンが、廊下に響いた。

「お父様!」
梨央が瞳を輝かせ、叫ぶ。

…寝室の扉の前、北白川伯爵が濃紺のガウン姿でにこやかに微笑んでいた。

「…旦那様…」

…北白川伯爵はガウン姿ではあったが、緩いウェイブの髪は無造作に撫でつけられ、その端正な貌は晴れやかに澄んでいた。
そのまま、朝食室に向かっても何ら問題はないほどに、清廉で優雅ですらあった。
…そうして、愛娘を見つめる眼差しはただただ慈愛に満ちた父親のそれであった。

…昨夜、淫蕩な情事に耽った男とは、まるで別人の高貴な大貴族の紳士…そのものだったのだ。



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