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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第2章 狭霧の告白
和彦は一瞬はっとしたように眼を見張り、すぐにもっと赤面すると俯いた。
「う、うん。そうだ…よね…」
赤らめた頬のまま、ちらちらと狭霧を見る。

…なんだ。こいつ、もしかして…。
男が好きなのかな?
別に同性が好きな男がいたところで驚きはしない。
狭霧が通っていた私学の男子高校は、昔から念弟の風習があり、学校きっての美貌の狭霧は、上級生に嫌というほどに迫られた思い出がある。
どいつもこいつもイモ野郎だったから蹴り飛ばしてやったけれど。
千雪みたいに綺麗な男の子なら、可愛がる分にはやぶさかではない。
でも、年端もいかない少年を抱く趣味はない。
…かと言って、性の対象にされるのもなんだか屈辱的な感じがする。
だから、狭霧はせいぜいが酒場で出逢った金持ちの紳士や青年と際どい恋の駆け引きか…たまさかに戯れのキスくらいで遊んだことしかない。

和彦は絵の具を渡したあとも帰ろうとはせずに、眩しいものを見るかのように、遠慮勝ちに狭霧を見つめている。

…話があるならすればいいのに。
狭霧は少し苛立った。
そして、ちらりと考える。

…そういえば…
和彦はいつも俺のそばの椅子に座ってデッサンしてたっけ…。
…デッサンをしている途中に、なんだか視線を感じて、振り向くと和彦の真面目そうな…けれど妙に熱の籠った眼差しにぶつかったのだ。
『何?』
眼差しで尋ね返すと、まるで悪事を見つけられた子どものように慌てて首を振り、視線を外した。
そんなことが幾度となくあったのだ。

…そうか…こいつ…。

狭霧は不意に面白くなり、特別サービスの甘い蜜のような微笑で和彦を見上げた。
「…山科くんさ…」
「う、うん!な、何かな?」
狭霧に微笑みかけられ、更には話しかけられた嬉しさなのか、和彦の表情が輝きだす。
狭霧は一歩近づくと、まだ朱に染まっている和彦の耳朶に囁いた。
「…俺が好きなの?」
和彦は、驚愕の表情のまま固まり、じりじりと後退りした。

…なんだかショックのあまりぶっ倒れそうな様子だな。
狭霧は和彦が慌てふためき、否定したりあたふたする様が見たかったのだ。
ただ、揶揄っただけなのに、くそ真面目すぎる。
そして少し気の毒になる。

…冗談だよ…
と、言いかけたその時…

「…す、好きだよ…。
い、泉くんが…泉くんが大好きだよ…!」
震える声で、必死に、振り絞るように告白されたのだ。






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