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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第5章 従者と執事見習い〜従者の恋〜
…厨房の裏手には料理長の春が丹精込めて育てているキッチンガーデンがある。
裏庭と言っても陽はたっぷり当たるので、ハーブやちょっとした根菜類がよく育つらしい。

特に薫り高いローズマリーやカルダモン、コリアンダー、バジルやミントなどはハーブ園と言ってもよいほどに広く緑を豊かに茂らせて、使用人たちの目や嗅覚を楽しませているのだ。

…狭霧は人影のないキッチンガーデンの隅に月城をいざない、担当直入に告げた。

「今朝は驚かせて悪かったね」
「…あ…」
再び月城はその端正な貌を赤らめる。
…実に純情な執事見習いだ。

「あのあと、梨央様は大丈夫だった?」
「はい。
旦那様がご一緒に朝まで寝てくださったので、大喜びでいらっしゃいました。
今もずっとご一緒にいらして、離れようとなさいません」

我が事のように嬉しげな貌をする月城を、狭霧はじっと見つめる。
…本当に梨央様が大好きなんだな…。
健気だな…と思いながらも、彼の実らぬ恋の行方を思うと狭霧の胸はちくりと痛む。

その感情を振り払うように、さらりと髪を掻き上げる。

「…良かった。
…あのさ、今更こんなこと、念を押さなくても賢い君は分かっていると思うんだけれど…」
「…はい」
「俺と旦那様のことは、君の胸に仕舞っておいて欲しいんだ。
…まあ、いずれどこからかバレてしまうかも知れないけれど…被害は最小限度に食い止めたい。
…俺はなんと言われても構わないんだけど、旦那様の名前に傷が付くことだけは避けたい」

月城は知的な美貌に気遣わしげな表情を浮かべ、言葉を選びながらおずおずと尋ねてきた。
「…あの…。
狭霧さんは、旦那様とどういう関係…と理解すればよろしいのでしょうか…」

狭霧はからっと笑い、出来るだけあっさりと答える。
「…そうだなあ。
ま、従者兼愛人…てとこかな。
…愛人…までいかないかな。まだ。
何しろ寝たのは昨夜が初めてだからね。
これからどうなるのか、俺も分からないな」

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