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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第5章 従者と執事見習い〜従者の恋〜
「…え?」
不思議そうに眼を上げる狭霧の首筋に、ひやりと冷たい銀鎖が掛けられた。

「…あ…」
…和彦の遺灰が収められたロケットだ。
伯爵のベッドのサイドテーブルに置き忘れてしまったのだ。
…しまった…!
置き忘れたことよりも、それに気づかない自分にショックを受ける。
…ごめん。和彦…。

「…遺灰のロケットを置き忘れるなんて、薄情な恋人だね…」
「…申し訳ありません…」
詫びる狭霧の身体を背後から強く…そして優しく抱き竦められる。

「…本当は返すのをやめようかと思っていたんだ…」
「え?」
…君がこれを一日中着けていることを想像すると、妬けるからね…」
「…旦那様…」
自分を抱きしめる男の手に手を重ねる。
ぎゅっと握りしめ、男の貌を振り仰ぐ。
「…すみません…。
これを身に付けていると、なんだか落ち着くんです。
…和彦が俺を見守ってくれている気がして…。
…でも、旦那様がお嫌ならもう付けません。
仕舞っておきます」

伯爵は小さく微笑んだ。
「…いいよ…。
そんな冷たいことを強いる気はないよ」
…ただ…

「…あっ…」
狭霧の耳朶が、かちりと噛まれた。

「…私と愛し合う時は、部屋に置いてきてくれ…」

「…旦那さ…」
その名を告げようとする口唇は、有無を言わさずに奪われ、語尾は甘く濃密な口付けに、柔らかく溶けていった…。


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