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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第5章 従者と執事見習い〜従者の恋〜
「…狭霧さん。
少しお時間をいただいてもよろしいですか?」

午後のお茶が済み、賑やかに談笑していた使用人たちはそれぞれの持ち場に戻っていく。
作業室で伯爵のテイルコートの袖の染み抜きを始めていた狭霧の目の前に、不意に執事の橘が現れた。

「はい。橘さん」
素早く起立する。
…階下での一番位の高い執事・橘が現れると着席していた者は、如何なる時でもすぐ様に起立しなくてはならない。
それは巴里も日本も同じだ。
階下での厳しくも整然とした暗黙のルールであった。

「それでは、私の執務室にお越しください」
橘は静かに告げると、踵を返し狭霧を先導するように己れの執務室へと歩きだした。

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